19日、OPEC(石油輸出国機構)とロシアなどで構成される「OPECプラス」は、8月以降の生産量を毎月増加させ、減産を縮小することで合意した。コロナ感染拡大による経済活動の停滞をうけ、日量580万バレルとしてきた生産量を来月以降日量40万バレルずつ増加させてゆくものの、協調減産そのものは、デルタ株の拡大などマイナス要因を踏まえ来年末まで続けることで一致したとのことだ。
「減産を縮小する」─聞いた瞬間は、増やすのか減らすのかすぐに理解できない分かりにくい言葉ではないか。落ち着いて考えれば“減らす量を少なくする”のだから、増やすということなのだが…。(笑) パンデミックによって昨年、世界の石油需要の1割に当たる870万バレルが喪失したそうだが、今年中にそのうちの7割ほどが回復するとIEA(国際エネルギー機関)は予測している。それにもかかわらず、産油国が増産に慎重な理由は、やはり一年前の4月20日、NY原油市場で、1バレル=マイナス40.32㌦まで急落し、歴史上初めてのマイナス価格に陥ったトラウマがあるからではないか。中東諸国もロシアも、石油以外に輸出できるものはほとんどないといっていい。原油価格は現在までに70㌦前後まで回復したとはいえ、また同じようなことが生じれば、自国の経済のみならず安全保障をも脅かす恐れすらある。ここはたがを徐々に緩めるのが得策と考えたのは至極当然といえる。
我々GS業界もこの姿勢に見倣いたいものだ。日本でも、変異ウイルスが急拡大しており、今後の需要の見通しは不透明だ。先週仕入価格が少し下がったが、まだまだ小売価格に反映できるような水準ではない。先週あたりから“抜け駆け値下げ”に走るGSが現れ始めたが、ここはやはり「値下げを縮小」して、早ければ来月初旬にも本格化するといわれる「第5波」に備えるべきではないか。
一方、英国では、首都 ロンドンを中心に人口の約85㌫を占めるイングランドで、今月19日から、マスク着用やソーシャルディスタンスの確保、テレワークの推奨などの規制がほぼすべて撤廃された。一日の感染者数が5万人を超えるまでに激増しているにもかかわらず、全成人の3分の2がワクチン接種を2回済ませていることや、死者や重傷者数が半年前と比べて大きく減っていることなどを背景に、経済・社会活動を正常化させるべく規制撤廃に踏み切ったのだ。ジョンソン英首相の賭けは「吉」と出るか「凶」と出るか、世界が注視している。
個人的にはとても安心できない。罰金を取られるわけではないだろうから、相変わらずマスクをしっかり着用して出かけることだろう。というか、いま以上に外出を控えるかもしれない。実際、英スコットランド保健当局によると6月中旬以降、サッカー欧州選手権の応援に集まった市民ら約2千人がコロナに感染したという。英国同様ワクチン接種が進むイスラエルでも、屋内でのマスク着用義務を撤廃した途端、感染が拡大したため、先月、着用義務をわずか十日で復活させた。
それでも英国が規制を撤廃したのは“ハエを叩くのにハンマーで机まで叩き壊す”ようなことをいつまでも続けられないからなのだろう。今後は感染者数よりも重症者数の推移を重視し、インフルエンザのようにコロナと付き合ってゆくしかないと腹をくくったのではないか。コロナで死んでも、ガンで死んでも、交通事故で死んでも「死者1」とカウントするという、統計学的判断に徹し、自動車運転と同様、国民個々人に自己責任を求めていくことになるのだろう。問題は、その責任を正しく果たす能力が国民にあるかどうかだ。
著名な経済学者ジャック・アタリ氏は、「コロナ危機がいずれ収束するというのは幻想だ」と警鐘を鳴らしている。容易に「減産を縮小」しないことにしたOPECプラスといい、感染拡大の中で規制撤廃に踏み切った英国といい、方向性はまったく異なるものの、どちらも「コロナ後」などという「幻想」を抱かず、いま置かれている状況に対してプラグマティックに対応しようとしている。まだまだ先は長い。「コロナが終わったら…」なんて約束は当分しないほうが良さそうだ。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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