vol.860『主導権はどっちが持つのか』

『26日、東京パラリンピックの選手村を走る自動運転のバス「eパレット」が、視覚障害のある日本の男子柔道選手と接触、男性は頭と脚に全治2週間のけがを追い、試合出場を断念した。車両を提供・運営するトヨタ自動車の豊田社長は27日、自社のオンラインサイトで謝罪し、「パラリンピックという特殊な環境の中で、目の見えない方もおられれば、いろいろと不自由な方もおられる。そこまでの環境に対応できなかった」と説明。「普通の道を普通に走るのはまだ現実を帯びていない」と語った』─8月27日付「ロイター」。

第一報を聞いたときには“ああ、やっぱり自動運転はまだまだ危ないな”との感想を抱いたが、その後の報道によると、「eパレット」が横断歩道の前で一旦停止したあと、オペレーターが手動で発進させた直後に、オペレーターから死角の位置にいた選手に接触したとのこと。そうであるなら、これは「eパレット」のせいと言うよりは、オペレーターのせいであり、人為的事故ということになる。ただ、オペレーターが判断ミスをしたとしてもなお、それをリカバーするぐらいじゃないと本当の自動運転とはいえないのも事実だ。

非の打ちどころがないと思われた人が何か失敗をすると、『あの人も“人の子”だったのね』と言われるとおり、失敗や過ちを犯すのが人間という生きものだ。どれほど完璧なマニュアルを作り、徹底的な教育・訓練を施したとしても、人間が操作をする以上、事故を100㌫防ぐことは不可能だ。“機械が誤作動したときに人間が介入する”という発想ではなく“人間が判断ミスをしたときに機械が制御する”という発想でシステムを構築・運用してゆくべきではないか。

 

例えば、2005年4月に起きたJR福知山線の脱線事故。過密ダイヤの中で遅れを取り戻そうとした運転士のスピードオーバーによってカーブを曲がりきれず、107人が死亡した。当時、カーブで速度を制御できる「ATS-P型」という新型の自動停止装置がこの路線に取り付けられていれば、惨事は防ぎ得たと報じられた。だが、1基約1000万円もの設置費用がかかるとのことで、JR西日本の全路線で6㌫しか導入されていなかった。機械化を怠った代償はあまりにも大きかった。

 

一方、2018年10月と2019年3月に、インドネシアとエチオピアでそれぞれ墜落事故を起こし、346名の犠牲者を出したボーイングの最新鋭旅客機「737MAX」は、飛行データの解析によると、 対向する空気の流れの角度を検出し、失速防止システムに適格な角度を示す働きをする「AOA」というセンサーが誤作動を起こし、それによって機種が上がり過ぎていると判断したため、下降操作を行おうとするAIと、上昇操作を行なおうとするパイロットとの“主導権争い”が発生し、失速に至ったという。AIに任せておけば絶対安心という訳でもない。もっとも、誤作動を起こしたセンサーを作ったのも人間なのだが…。

セルフGSにおいては、運営者もお客様も、人間はみな「従」の立場。セルフコントローラーが司る店舗で人間は“危険物の販売を監督する”という名目で店番を務めているだけ。お客も、ボイスガイダンスの案内に従って計量機を操作するだけ。間違いなど起こりようもない。ところが最近、立て続けに「給油したのに(ガソリンが)入っていない」と言ってくるお客がいた。こんなとき“故障?”とうろたえてはいけない。そんなことはあり得ない。「いいえ、お客様。確かに給油しておられますよ」。どうやら自分がイメージしていたよりもフュエルメーターが上がらなかったので、「入っていない」と思ったらしい。そりゃあ、千円分ぐらいじゃあ大した量は買えませんわ…。(苦笑)

機械が上か、人間が上か。どんなことは機械に任せ、どんなものは人間が担うのか。21世紀の社会システムの大きな大きな課題だ。それにしても、今回の選手村での事故は、トヨタにとって、いや日本の自動車業界にとって、とてつもないイメージダウンとなったんじゃないだろうか。何せひとりのパラ・アスリートの人生を台無しにしてしまったのだから。金メダルをかじったどころの騒ぎじゃないと思う。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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