vol.646『プレミアムって何だ?』

今週末から「プレミアム・フライデー」なるものが始まるらしい。経済産業省はホームページで次のように説明している。

『いま、世の中では「安いこと」が強く求められ、商品・サービスの低価格競争が展開されています。質よりも低価格が優先されるなかで、良質な商品・サービスから得られる「幸せ」や「豊かさ」を実感する機会が失われつつあるのです。その一方で、消費者にとって、価値のあるものが多様化している現状もあります。特に、個人が幸せや楽しさを感じられる時間や体験などは、積極的な消費に結びつく傾向にあります。これまでのデータを見ると、給料日の後の月末の金曜日には、平均消費額が高くなる傾向が見られています。そこで、この月末の金曜日に、消費者がプレミアムと感じるモノやコトを味わうことで、日常より少し豊かな時間を過ごすことが出来る、プレミアムフライデーを提案しています』─。

『質よりも低価格が優先される』と「幸せ」や「豊かさ」が失われるとしているが、一般庶民は、お買い得商品を手に入れることで、「節約」という目的を達成し、満足感を得ているのであって、可処分所得が倍増でもしない限り、おいそれと“プレミアム”なものに手を伸ばすことはないだろう。その証拠に、旅行業界では、JTBが2月24日と3月31日(金)を出発日とする旅行プランを販売するのだが、その中身はツアー代金や宿泊料を割引するクーポンを配布するというもの。外食業界では、サントリー系列の一部の飲食店が開店時間を早め、15~18時限定で「ザ・プレミアムモルツ」を半額で提供するという。結局、低価格で客を取り込もうという安易な発想で、プレミアムでも何でもない。“安売り疲れ”のGS業界では、もはやプレミアムなことをする体力も知力も残っていないだろう。

もし、「プレミアム・フライデー」に旅行や外食をしようとするなら、多くの家庭はそのために節約するだろうから、“ふつうの日”の消費が一段と落ち込む恐れがある。それに、休みを週末に集中させるという発想が『多様化する』消費動向にそぐわないのではないか。かく言う私は、買い物や外食は客が混まない平日に行くことにしている。「プレミアム・フライデー」もお出かけしません。

「プレミアム・フライデー」には、「働き方改革」を促進させる狙いもあるようだが、中小企業の大半は、金曜日はおろか土曜日も出勤している企業が少なくない。人手不足が深刻化する中でも、サービス業は年中無休営業を続けており、「プレミアム・フライデー」とは無縁だ。また、日本の労働力の4割を占める非正規雇用者の多くは、貧困の恐怖と闘いながら、朝から晩まで必死に働いている。結局、“プレミアム”の恩恵を受けるのは、大企業や役所で働く人たちぐらいじゃないだろうか。そうした人たちの中にも、「そんなに早く退社したってやることねえし、あとからしわ寄せが来るぐらいなら仕事させてくれよ」とぼやいている人、結構いると思う。

そもそも、休みの時間を消費する機会に結びつけること自体、間違っているような気がする。むしろ、月に一度ぐらい、国中で消費を控えて、奉仕活動や家族生活に時間を割くなら、真の幸せや豊かさが得られるのではないだろうか。

経産省の説明は次のような言葉で結ばれている。『(プレミアム・フライデーは) 個人が幸せを感じられるライフスタイルへと変化するきっかけとなり、また、価値のある商品・サービスに対し適正な対価が支払われることで、デフレ的傾向を変えるきっかけとなることが期待されています』(下線は筆者)。そこまで言うんだったら、是非とも「売り方改革」を推進してほしい。もし、経産省が全国のGSに定休日を義務付け、深夜営業を禁止し、不当廉売に厳しい罰を課すなら、おのずとGS業界は「適正な対価」で販売するようになり、日銀が悲願とする物価上昇率2㌫の達成に大きく貢献することになるだろう。そんな世の中になったら、当店も金曜日は毎週15時で閉店させていただきます。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治

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