このコラムでも時々取り上げているLCC(格安航空会社)。2011年、全日空などが出資し、日本発のLCCとして立ち上げたのが、関空を拠点とする「ピーチ・アビエーション」。就航は2012年3月1日。まだ閑古鳥が鳴いていた関空から、札幌行きのピーチ便が、定刻より17分遅れで乗客162人を乗せて飛び立った。当時、関西と札幌・福岡の2路線、旅客機は3機で始まったピーチは、現在、国内線14、国際線13の計27路線を18機の旅客機で運航しており、業績も2014年3月期に国内LCCで初めて黒字転換し、16年3月期は営業利益が2倍になるなど好調だ。また、関空を発着する定期便の便数は、国内・国際ともにピーチが最多。関空全体の利用者数も、2011年度は1385万人だったのが、2015年度には2405万人と1.7倍以上増加しており、関空にとってはまさに“ピーチさまさま”という状況である。
そのピーチ、就航5周年を前に、大株主のANAホールディングスが出資比率を現在の約39%から67%に引き上げ、連結子会社とすることが決定された。ANAはピーチの独自性を維持していくと明言しており、ピーチの井上CEOも、マイレージ導入や予約システムの統合、ANA便との共同運航については「一切やらない」と断言している。さらに、井上氏は、雑誌『東洋経済』のインタヴューで、ピーチ快進撃の秘訣を問われ、「何をやるかではなく、何をやらないかを明確に決めたことだ。妥協して儲かるならいいが、とんがってきた生き様の角が取れてしまい、普通に近づいてしまう。だからアライアンスは論外」と歯切れ良く答えている。しかし、これからもとんがっていられるかどうかは、やはり業績如何であろう。独自性をなお一層発揮して、年々激化するLCC業界で“勝ち組”となれるかどうか─。
近年、GS業界においても、元売子会社が“独自性”を発揮している。親会社の唱える「採算性の重視」という方針を無視して、地域最安値の価格看板を出している子会社GSは少なくない。同じマークを掲げている一般特約・販売店との共存共栄を図ることなく、量販路線をがむしゃらに突き進んでいるように思える。しかし、その結果は、LCC業界のように市場のパイを拡大させることにはならず、むしろ、カニバリゼーション(共食い)を引き起こし、疲弊の度合いを深めることになった。結局、そのダメージが親会社の体力をも蝕んでいる。来月から発足するJXTGの傘下には、1、400ヶ所余りの直営店があるが、相変わらず“共食い”を続けるのだろうか。
しかし、元売子会社だけに非があるわけではない。独立系GSも、系列店何するものぞとばかりに戦いを繰り広げ、少なからずダメージを負った。何人もの安売り量販店々主が“以前はしばらく安売りすれば相手(系列)も音をあげて、数量も取り戻せたのに、最近は全然諦めてくれない”とこぼすのを聞いた。そこへ参戦してきたのが、「コストコ」などのカテゴリキラー(CK)。例えて言えば“うちが経営するホテルに泊ってくれるなら、宿泊代や食事代や土産代で十分稼がせてもらえるから、飛行機代は儲けがゼロでいい”という航空会社が現れたようなものだ。そのうちLCC業界にも、そういう「送迎ヒコーキ」を飛ばす会社が現れるかもしれない。
価格の優位性が保てなくなった独立系GSが、この厳しい環境の中でどうやって生き残ってゆけばよいのか。ピーチの井上COCの「何をやるかではなく、何をやらないかを明確に決めた」という言葉は、まさにローコストセルフの哲学でもあるが、それだけでは不十分だと思う。元売やCKと伍してゆくためには、独立系GSならではの、自由で挑戦的なサービスが必要だ。ピーチでは、「大喜利」と呼ばれる社内公募制度があって、優秀な案には「座布団」が与えられ、承認されれば予算が付くという。「ピーチの価値観に反するもの、つまりチャレンジングでないもの、おもろくないもの、くそまじめすぎるのは全部ダメ。こういうプロセスが企業文化をはぐくむ」と、井上氏は語っている。全国の独立系GS経営者も、ネット掲示板などで「大喜利」を開催してみてはどうだろうか。もしかすると、ももいも…じゃない、思いもよらない、ももしろい…じゃなかった、面白いアイディアが出てくるかもしれない。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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