vol.701『ひきこもり』

『ひきこもりの人の年齢が高くなり,期間も長期化していることが,親や本人でつくる「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」(東京)の調査で明らかになった。同調査は,昨年11月~今年1月,全国の支部の家族らを対象に実施。約550人が回答した結果,ひきこもりの本人の平均年齢は34.4歳,ひきこもっている平均期間は11年8ヶ月で,いずれも同連合会の調査では過去 最高だった』─3月26日付「讀賣新聞」。

 そもそも“ひきこもり”とは何か。厚労省の定義によれば,「仕事や学校に行かず自宅に引きこもり,家族以外とほとんど交流しない人や状態が6か月以上続いた場合」とのことだ。ひきこもる程度もいろいろあって,全く自宅から出られない人もいれば,買い物などのために外出したり,自分の趣味などの用事のときだけ外出する,「準ひきこもり」の人もいる。私の周辺でも,息子や娘,あるいは孫が学校や職場でいじめられたりして,ひきこってしまったという話は時々聞くのだが,平均年齢が30代半ばになっているとは思わなかった。本人のみならず,家族も本当につらいことだと思う。

 ひきこもりの6割前後は就労経験があると言われている。彼らは常識を越えた過重労働や慢性的なパワー・ハラスメントを受けてきた者が多く,その結果,働くことへの強い恐怖感や拒否感を抱くまでになってしまう。ある精神科医の分析によると,無職となってしまった彼らが恐れているのは,他者から「今何をしているの?」と聞かれることだという。その質問を恐れて,まるで逃亡者のように逃げ回った結果,友人,知人,他者との交流を自ら断ってしまうのだそうだ。

 2010年に発表された研究によれば,社会的孤立状態は紙巻タバコ15本分の健康被害をもたらし,一般の人に比べて2倍太りやすくなるという。また,2012年に2200人の成人を対象に行なわれた調査では,孤独を感じている人はアルツハイマー病発症リスクが高まると報告されている。

 やはり,人間という生きものは,社会とのつながりを持つことで,幸福感を感じ,健康に生きられるよう創られているのだなと思う。朝から晩まで,セルフスタンドの監視室にひきこもっているのは良くない。しかし,逆に言えば,他人とのコミュニケーションを持つことに困難を覚え,仕事に就けないで悩んでいる人は,とりあえずセルフスタンドの監視員あたりから始めてみてはどうかとも思う。

 現行の消防法では,危険物の保安監督資格を持っていないと店を任せられないが,ひきこもりの人は知的または精神的な障害があるわけではない。自室に引きこもっている時間を活用して資格を取得し,ひきこもる場所をGSの監視室に移して社会復帰への“助走”を始めるということはできないものか。むろん,お客さんから呼び出されることもたまにはあるが“給油のみセルフ”の蔑称で呼ばれるローコストセルフなら,その機会も非常に少ないので,比較的安心して勤務できるのではないだろうか。求人チラシに“コミ障の方でも安心して勤務できます”と謳ってみてはどうだろう。

 “現実はそんな甘いもんじゃあない”と叱られてしまうかもしれないが,全国に約18万人,準ひきこもりの人も含めると54万人に上ると言われる人たちを放っておいていいはずがない。ひきこもりの自立支援団体などと連携を取り,出来ることから取り組んでゆくことで,労働力不足を補うこともできる。このまま人手不足を放置しておけば,長時間労働の連鎖で,GS業界がひきこもりの人を増やしてしまうことにもなりかねない。

 それにしても,これだけ多種多様なコミュニケーションツールがある世の中で,コミュニケーションを取れなくなる人がかつてないほど増えているとは,やはりこの世は病んでいるのだなとつくづく思い知らされる。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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