「じぶんからきょうよりか もっともっとあしたはできるようにするから もうおねがいゆるしてゆるしてください」─東京都目黒区のアパートで両親に虐待された末に死亡した5歳の少女が、ひらがなの書き取り帳に綴っていた「反省文」は社会に大きな衝撃を与えた。今月6日に保護責任者遺棄致死容疑で少女の両親を逮捕した警視庁捜査1課の幹部は、捜査経過を説明した際、声を詰まらせながらこの「反省文」を読み上げたという。私も、胸が張り裂ける思いを通り越して、吐き気をもよおしそうになった。
松本清張が実話をもとに児童虐待を描いた『鬼畜』という小説があるけれど、あんなの比じゃない。敢えて言うなら、東京都内のアパートの一室にアウシュヴィッツがあったということだ。そして、いまこの時も、推計6万件ともいわれる家庭で、脅されたり殴られたりしている子どもたちがいるという。しかも、その子たちの叫びは大人たちの耳にはほとんど届かず、恐怖と絶望の日々を送っているのだ。本当にやりきれない。
ガソリンスタンドの社会貢献活動として“かけこみ110番”運動というものがある。GSを子どもたちの緊急避難所として活用してもらおうということなのだが、どれほどの効果があるのだろうか。基本的には通学・帰宅途中に見知らぬ人につけられたり、連れて行かれそうになったりした時に、子どもを保護し、警察に通報するという役割だが、そのうち、裸足で子どもが駆け込んできて“おとうさんに殺されかけたので家から逃げてきた、助けて!”なんてことが起きるかもしれない。あとから親が追いかけてきて“うちの子を返せ!拉致されたと警察に通報するぞ!”と逆に脅されるかもしれない。そんなとき、子どもを引き渡すべきか否か…。そんなシュチュエーションは想定しにくいかもしれないが、私はいまから14年前に起きた事件を思い出す。
栃木県小山市で当時3歳と4歳の男のきょうだいが父親の友人の男に連れ去られ、橋の上から川に投げ捨てられ殺害されるという痛ましい事件があった。子どもたちの父親は、犯人の男とは中・高校生のころから暴走族の“兄貴と舎弟”の間柄で、ともに数年前に離婚後、父子家庭となっていた。犯人は実子の世話のほかに“兄貴”の子ども二人の世話も押し付けられ、逆らうこともできず、不満を募らせて幼い兄弟にたびたび暴行を加えていたという。
犯行当日、犯人はまず近所のGSに車を停め、車中で5時間にも渡って子どもたちを殴り続け、二人がぐったりしたので川へ投げ捨てたと自供している。犯行現場のGSはセルフスタンドで、従業員は、男が子どもをたちを殴っている様子が見えたが、怖くて何もできなかったと証言している。しかし、5分間ならともかく、5時間も見て見ぬ振りができるものか。実際、その現場に居合わせたものでしかその恐怖は分からないかもしれないが、勇気をふりしぼって警察に通報してほしかったと思う。それに5時間もGSに居たのなら、何台もの客が給油していっただろうに、だれも気が付かなかったのだろうか。
今回の目黒区の事件もそうだが“何か変だぞ”と思えても、トラブルを恐れて見て見ぬ振りをしてしまうのが世間というもの。児童虐待の事件が起きるたびに、決まって児童相談所の対応が槍玉に挙げられるが、増え続ける事案に人手が足らないのが現状と聞く。そんなこんなで今後も児童虐待の犠牲者は跡を絶たないだろう。オリンピックをやるよりも、恵まれない子どもを保護し、支援することにお金を使ったほうがいいんじゃないのという意見もあるが…。
小山市の事件は、もうすっかり忘れ去られた感があるが、GSが残忍な虐待の現場となったということで、私の記憶にはいまもへばり付いている。犯人はその後、死刑判決を受けるも、控訴審を待つあいだに2006年、拘置所で病死した。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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