COCと独立経営<753> 大きすぎて変われない – 関 匤

「両利き経営」という本に米国ブロックバスター社のことが書かれていました。

全米を席巻したビデオレンタルチェーンでピーク時に9000店舗を展開していました。しかしネット配信動画の急激な拡大と、それに対する戦略の失敗から2014年に倒産しました。現在、ブランドを掲げた実店舗が一店残るのみだそうです。

この事実は知っていたのですが、同社は2000年に大きな成長の芽を掴むことができたはずでした。それは当時、郵送によるレンタルビジネスを細々と行っていたNetFlix(NF=ネットフリックス)社からの買収提案でした。それを自ら放棄しています。5000万㌦(50億円)は高すぎるという理由でした。

2007年にNF社はレンタルからネット配信に転換します。YoutubeやAmazon等々との競合が相乗効果を生んで、リアル店舗のレンタルは一気に後退します。NF社は毎月の売上げと利益が見えるサブスク(定額制)で成長し、今や自主制作映画に有名俳優がこぞって出演します。年商は3兆円、コロナ禍の巣ごもりで2020年第1四半期だけで「1500万人」もの会員増となりました。

ブロックバスターがNF社を社員ごと手に入れていたら、必ず動画配信に辿り着いて店舗がゼロになっても堂々とネットの覇者になっていたはずです。

もう1つ有名な事例で、コダックがあります。世界で初めてデジカメを作ったのがコダックでした。しかも1975年です。将来の成長の芽を掴んでいたのですがお蔵入りしました。粗利益率75%の銀塩フィルムに対してデジカメは5%しかないのが理由で、研究すら放棄されました。既存事業を脅かす事業として否定されました。

こういう話を“バカだな”と否定するのは簡単ですが、その時代の当事者にとっては難しい判断だったと思います。

元売であれば、全ての製油所を発電所に転換して同時にEVメーカーになるようなことですから。売上の9割を石油・ガスに依存する現状では到底できない判断です。

それでもITというキーワードが出現以降に成長した企業は、既存事業と何の関連もないような領域に手を出してモノにしていることに気付きます。有名なのが、コダックに対する富士フィルムです。社名からフィルムを外してよいほど新しい事業領域を確立しています。新規参入した化粧品でも高いブランド力を持ちます。

石油業界でこういう事例はあったのでしょうか?悪い例で有名なのが、ガス供給会社から金融事業に拡大して粉飾決算で吹き飛んだエンロンです。メジャーのエクソンモービル、BP、RDシェルも現状は1世紀以上前のビジネスモデルのままです。もちろん、元売も同様です。

流通業界では1970年代にSSから足を洗ってホームセンター事業に転換して、上場企業になった例があります。しかし80年代以降、上場するほどの成長事業を作りあげた事例を私は知りません。

業界団体―経産省―政治という業界の意思決定構造が半世紀以上変わっていないということは、現状を少しずつ拡大することに事業意欲が矮小化されたのでしょう。

前回の原稿で、出光興産の中期経営計画の見直しを考えました。相当のスピード感を持って企業の業態を転換させる意思を感じました。同時に計画を実現するためには、社員をIT技術者に置き換えるくらいの覚悟が必要と思います。「オープンでフラットでアジャイル(迅速な適合性)」を謳うわけですから、従来の石油村のピラミッド型構造を否定しています。

ブロックバスターもコダックも馬鹿ではなく環境変化を理解しながら、既存事業の大きさゆえに意思決定が遅れてIT化の波に圧壊しました。出光が中計通りに変革したら、流通業界にも大きな余波が出現することでしょう。

COC・中央石油販売事業協同組合事務局


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