vol.784『ジェームズ・ボンド』

4月に予定されていた、「007」シリーズ25作目「ノー・タイム・トゥ・ダイ」の世界一斉公開が、新型コロナウイルス禍の影響で11月に延期されてしまった。知り合いに「007」マニアがいて、最新作を楽しみにしていたのだが…。コロナウイルスは、映画製作や公開・興行にも暗い影を落としている。いま世界を震撼させているこのウイルスは、中国で研究開発中だった細菌兵器が流出したためとか、テロリストが中国に持ち込んで実験を試みたためなどといったウワサがまことしやかに広まっているそうな。ただ、それらを“流言蜚語”と一蹴できるかと言えば、そうでもない。「9.11」以降、いまの世の中、どんなことが起きても不思議じゃない。

「007」シリーズでは、毎回、国際的な陰謀を企てる政治家や科学者、実業家やテロリストたちがジェームズ・ボンドと対決するのだが、最大の敵役と言えば、世界征服を目論む国際犯罪組織「スペクター」を率いる、エルンスト・スタヴロ・ブロフェルド。シリーズ最多の7回の登場を誇るボンドの宿敵である。シリーズ第6作「女王陛下の007」(’69)に登場したブロフェルドは、スイスで密かに細菌兵器を製造、英国をはじめ欧州の家畜や農作物を全滅させ、経済危機を生じさせようと企む。ボンドの活躍によって陰謀は阻止されるが、逃亡したブロフェルドによってボンドは最愛の妻を殺されてしまう。ボンドを演じたのは初代S・コネリーの後を受けてのジョージ・レーゼンビーで、この一作のみだが、マニアの中では意外と評価は高いらしい。

東西冷戦時代に登場したボンドも、歴史の変遷と共に戦う相手が変わってきたが、世界は依然として恐怖と憎悪の渦巻く状態のままだ。いまこの時に007が果たすべきミッションとは何か。もしコロナウイルスを何者かがばら撒いているとすれば、首謀者を突き止め、組織もろとも叩き潰してくれるだろう。ワクチンを開発した科学者がテロリストに誘拐されたとあらば、ワルサーPPKを手に、愛車アストンマーチンを駆ってボンド出動となろう。世界中のマスクを買い占め暴利をむさぼる巨大流通組織の黒幕をボンドがやっつけてくれるかもしれない。

ともかく、いまは世界各国が角突き合わせている場合ではなく、地球規模の災厄に協同して立ち向かわなければならない。いまから100年以上前に大流行した「スペインかぜ」は、全世界で少なくとも2、000万人の人命を奪ったが、皮肉なことに、そのことで第一次世界大戦の終焉が早まったとされている。今回のウイルス感染も、もしかしたら、世界の指導者たちに“おれたち喧嘩なんかしてる場合じゃねえな”と悟らせ、待望の世界平和を実現させることになるかも。そうなれば007はめでたく解雇である。

ところで、ウワサによれば、今回の25作目をもってジェームズ・ボンドは引退し、「殺しの許可証」を英国情報部に返納、新たに「ダブルオーセブン」の称号を受け継ぐのは、なんと美貌の黒人女性になるとのことだ。いうまでもなく、人は肌の色や性別で評価されてはならないが、007をジェームズ・ボンド以外の人物が務めることには違和感を禁じえない。ダイバーシティを意識するのであれば、スピンアウトした別の「ダブルオー」エージェントを主人公にした作品を製作すればいいのであって、やっぱ「007」はいままでどおりのキャラクターでやってもらいたいと願う私は保守的なのだろうか。

コロナウイルスの感染が広がり、深刻度が増す中で、何を能天気なコラムを書いているんだと思われるかもしれないが、こういう時だからこそ、「007」映画のような娯楽映画でも観て、気分転換したほうがいいんじゃないだろうか。いまは、ネットで映画をレンタルできる便利な時代。不要不急の外出自粛を求められているこの時に、古今東西の映画を鑑賞して、ストレスを和らげたり、教養を培ったり、人生を見つめ直してみたりするのはいかがだろうか。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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