vol.796『欲望という名の敵』

『新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が全面解除されて8日で2週間となる。読売新聞が2週間(5月23日~6月5日)の感染者538人を分析したところ、感染経路不明の人が55㌫に上り、若い世代の感染者も目立つことが分かった。東京都内では接待を伴う飲食店など「夜の街」での感染拡大も懸念されており、政府と都は検査強化などの対策に乗り出す』─6月8日付「讀賣新聞」。

コロナウイルス第一波がピークアウトしたことを受けて、経済活動を再開しはじめたのも束の間、不気味な黒い影が再び忍び寄ってきた感がある。ただ、東京都をはじめどの自治体も、再度の緊急事態宣言の発令には慎重だ。さもあらん。やっと経済活動が再開できるとなった矢先に、また「振り出しに戻る」ことになってしまったら、ここまで何とか耐え忍んできた人たちの心が折れてしまい、もはや再起不能になってしまうかもしれない。そう考えると、なかなか再発令には踏み切れないのだろう。

東京都では、ホストクラブやガールズバーなど、いわゆる“夜の街”に関わる人が感染するケースの増加が見られている。都の調査によると、5月26~6月1日にかけて感染が確認された90人のうち、およそ3割にあたる26人が「夜の繁華街での接待を伴う飲食業の従業員やその客」だったとのことで、特に若い世代での感染が目立つという。当局も、経済活動を再開させた以上、風俗産業で感染者がある程度出ることは想定していたようだが、他の業種と異なる特有の問題がある。それは、感染者が出た店が、その場にほかに誰がいたか一切喋らないということ。コロナウイルス対策において最も重要なことは、クラスターを把握することなのだが、それを妨げる“ルール”が夜の街にはあるのだ。

東京アラートが発動された最初の日曜日となった昨日(6月7日)、都内の繁華街は軒並み人出が大幅に増加した。「東京アラート」ってなあに?ってな感じで、手をつなぎ歩くカップルや、大声で騒ぐグループなどの様子をテレビで観ていると“こりゃあダメだな”と思わざるを得ない。思ったよりも早く“第二波”が来るんじゃないかと心配になる。

結局、私たちが戦わなければならない敵とは、コロナウイルスではなくて、自分自身の中にある欲望ではないだろうか。うまいものが食べたい、たくさんお金を稼ぎたい、自由に遊びまわりたい、好みの異性と戯れたい…などなど、快楽を欲する衝動をいかにコントロールするかどうかが、今日の危機に対処するための鍵を握っているのではないか。

もちろん、まったく欲望を持たない人間など存在しない。どんなに無欲であろうと努めても、腹は減るし、のどは渇くし、眠気を催すように人間はできている。また、だれかから愛されたいとか、働いて達成感を味わいたいといった欲求は健全なものであり、幸福な人生を送るために不可欠なものだ。しかし、「ポストコロナ」においては、それらの欲求をあるべき位置にとどめて生きてゆかないと、死を身に招く恐れがあるということを私たちは自覚すべきだろう。

一方で“どうせ死ぬのなら、やりたいことをやりたいだけやっておきたい”と言う人もいることだろう。いまから2、500年前、ギリシャの歴史家ヘロドトスは、当時のエジプト人の風習についてこう書いている。『富んだ人たちの宴会の時には、晩餐後に、棺桶に入った遺体をかたどって彫刻・塗装を施した、長さ一、二キュビト(約50~100㌢)の木製のミニチュアを、一人の男が同席者全員に見せて回り、こう言う。「飲んで楽しくやりましょう。ご覧なさい、死ねばこうなるのですから」』─。

いつの時代も、こうした刹那的な生き方を好む人は少なくない。将来への不安が募れば募るほど、このような生き方が魅力的に思えたりもする。そうやって人類は、飽くことなく快楽を追及し、何千年も同じ苦しみを経験してきたのだろう。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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