vol.808『ぴえん』

「潰瘍性大腸炎で総理辞任。安倍さんマジぴえん」─という具合に使うらしい。女子中高生向けのマーケティングリサーチを行うATFという会社が主催する「JC・JK流行語大賞2019」のコトバ部門で1位となった言葉が「ぴえん」。「ぴえん」とは、泣いていることを表す言葉。嬉しいことでも、悲しいことでも、悔しいことでも、とにかく、泣きたいほど〇〇なことを伝えたい時、「ぴえん」を最後に添えるかたちで用いる。「彼氏欲しい。ぴえん」てな感じ。また、形容動詞として「ぴえんな映画」などと使うことも。

“ぴいぴい泣く”といった古くからあった擬音と同じ「ぴ」の語根を持つ「ぴえーん」が縮まって「ぴえん」。2010年頃から使われ始めたらしいのだが、昨年あたりから女子中高生を中心にSNSで多用されるようになり、一気に広まったらしい。まあ、タピオカ同様、彼女たちがはまるものは、半年もすると朝露のように消えてなくなってしまうから、「ぴえん」旋風が吹き荒れるのも今年いっぱいかもしれないが…。

若者たちの新語に眉をひそめる大人たちは多いが、私はこんな世の中で、泣きたくなるような気分を「ぴえん」なんて可笑しな言葉で表現する若者たちに救われているような気がする。実際、私たちがいま直面している試練の多くは、「ぴえん」なことではないだろうか。ウィンストン・チャーチルは、第二次世界大戦中の苦悩の時期を回顧し、当時の自分についてこう語っている。「その老人には多くの悩みがあったが、そのほとんどは取り越し苦労だった」─。
こんな時代だから、先々の事を考えれば、心配事がどれだけでもあふれ出てくるのだが、四六時中それらについて考えていたら、心身共に病んでしまう。想像上の問題を心配してストレスを増やさなくても、私たちは毎日、現実の問題に対処するだけで十分のストレスを感じているのだから、とにかく、何とかきょう一日を乗り越えらたらそれでよしとするようでないといけない。思い煩いはまた明日に。

いま世の中は「ぴえん」の声に溢れている。GS業界も厳しい状況にある。だが、コロナが来なくても、ガソリンの販売量が減ってゆくことはわかっていたわけで、それが二~三年早まっただけのことだ。ウィズ・コロナにおいてGS業界が適正な利潤を得るためには、適正な価格で売るしかない。それもできずに、いつまで経っても“困った困った”と頭を抱えている「ぴえん」な業界なのだ。
一方、コロナ禍によって本当に厳しい状況に置かれている人たちがいることを私たちは知っている。湊かなえという作家は「朝日新聞」のコラムでこんなことを書いていた。『「ぴえん」は足の届く浅瀬で騒いでいるようなもの。もっと深い所で溺れかけている人が見過ごされないためにも、政治家の方々には「ぴえん」の奥にある、本当に救済が必要な人たちの声を拾い上げていただきたいと願っています』─。

 

このたび、総理大臣が替わることになったが、だれがなっても、この苦難を乗り越えるのは至難の業といえよう。就任したその日から、「ぴえん」な日々が待ち受けている。チャーチルのように「取り越し苦労だった」とうそぶくようなことになれば良いのだが、果たしてどうなることやら。とにかく、「本当に救済が必要な人たちの声を拾い上げて」ほしいと思う。

 

ところで「ぴえん」には、さらに上の感情表現があって、それは「ぱおん」。「仕入れ価格が上がってぴえんなのに、近所のエネオスはまさかの値下げ。ぴえん通り越してぱおん」という感じで使うのだそうだ。(苦笑)

 

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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