vol.830『田中が帰ってくる』

田中将大が8年ぶりにNPBに復帰することとなった。則本・涌井・岸を擁する12球団最強の先発陣に、ドラフトで見事当たりくじを引き当ててゴールデン・ルーキー早川を獲得したうえに、MLBで6年連続2桁勝利を挙げた田中が加わるのだから、楽天イーグルスの優勝はほぼ間違いないだろう。ケガ人さえ出なければ…。

2年契約で、推定年俸は9億円と、日本人選手として歴代最高額だが、昨年までヤンキースが田中に支払っていた年俸は25億円余り。昨シーズンで契約が切れ、再契約の可能性もあったが、コロナ禍でヤンキースですら財政が厳しく、田中を放出せざるを得なかったと報じられている。それでも、田中ほどの選手であれば、メジャーの他球団でプレーすることもできたであろう。やはり、コロナウイルスによる死者が43万人超という感染大国で家族と暮らす不安があったのではないか。ジャイアンツの菅野智之が残留を決めた要因のひとつも、現在の米国の状況を勘案してのことだったと思う。

菅野残留によって、ジャイアンツのリーグ優勝は決まったようなものだ。(豪語) 問題はホークスに2年続けて4タテを喰らった屈辱を晴らすことができるかどうか。すでに、パが1部リーグ、セは2部と言われて久しい。とりわけ、かつて“球界の盟主”と呼ばれてきたジャイアンツの凋落ぶりたるや、目を覆いたくなる。今回の、田中の楽天復帰で、その差はますます広がると見られている。

ジャイアンツとイーグルスは、2013年に日本シリーズで対決している。イーグルスの絶対的エースだった田中は、その年24勝無敗。シリーズ2戦目に菅野と投げ合い、2-1で完投勝利を挙げている。イーグルスが王手をかけた第6戦で両者は再び先発。2-0でイーグルスリードのまま迎えた5回、ジャイアンツはロペスの同点2ランのあと、二死 一・三塁と攻め、高橋由伸がセンター前ヒットを放ち勝ち越し、その後の継投策も決まって、遂に田中に公式戦唯一の黒星を付けたのだった。結局、次の試合0-3でジャイアンツは敗れ、イーグルス初の日本一を許すのだが、9回に登板したのは前日160球を投げた田中。2安打を浴びるも得点を許さず、胴上げ投手となった─。

かつて、金田(国鉄)や稲尾(西鉄)や杉浦(南海)が投げていた時代は、ダブルヘッダーの第1戦で完投し、第2戦にリリーフ登板するなんて日常茶飯事で、エースと呼ばれるピッチャーは、20勝が“最低ライン”だった。先発ローテーションや分業制が確立されたいまでは考えられないことだが、2013年の田中は、まさにそんな時代を髣髴とさせるような活躍だった。

そんな田中が帰ってくるというのに、そして、パ・リーグのレベルがますますアップするであろうというのに、ジャイアンツの選手たちが、テレビのバラエティ番組で能天気にはしゃいでいる様子を見かけると“ああ、今年もやっぱり無理かな”と感じる。そんな事やってるヒマがあったらトレーニングしろよ。緊急事態宣言下で深夜に飲み歩いて謝罪に追い込まれた国会議員もそうだが、もっと自分たちに課せられている使命というか、責任というものを自覚してもらいたい。結びに、先ごろ亡くなった「人類史上最高」の野球選手の一人、ハンク・アーロン氏の言葉を献上する。

『3割バッターと2割8分バッターの差はかなりはっきりしています。3割バッターは狙い球がきたら逃しません。2割8分のバッターは狙い球がきてもしばしばファールにしてしまうのです。人生で何かしようという時にもこの差がそのままあてはまると思えることがよくあります。野球をするにしても、他の仕事をするにしても、一回のチャンスをものにしていい結果を出すことです。精一杯やり抜くことです。そのときがきたら大事なのは二つのことです。その一瞬を逃さないようしっかり準備しておくこと。そして、思いきり振り抜く勇気を持つことです』─。

 

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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