vol.832『事業承継』

「東京商工リサーチ」は、2020年度の「後継者難」での倒産が、1月までの10ヶ月間で289件に達し、最多である19年度の319件を超えることがほぼ確実となったと発表した。19年の代表者の平均年齢は62.16歳で、高齢化が進んでいるとのことである。一年前から始まったコロナウイルスの感染拡大によって、高齢者には“死”が一層身近に感じられる状況となった。自分にもしものことがあった時に備えて、事業承継を急ぐ機運が、とりわけ中小企業の経営者の間で高まっている。

同調査によると、「後継者不在率」は、57.5㌫で、前年より1.9ポイント上昇した。コロナ禍でビジネスモデルや労務管理の変革を迫られており、このまま後継者不在を解消できないと、事業継続の断念に追い込まれる恐れがある、とレポートは結論付けている。「帝国データバンク」の行ったアンケート調査では、「事業承継の準備段階に入って行こうかと考えていたが、新型コロナの影響で事業承継どころではなくなってきている」とか、「事業承継のために蓄えてきた資金もコロナ禍による売り上げ減少で運転資金に回さなければならなくなった」などの声が寄せられており、コロナ禍で事業承継の計画に狂いが生じている様子も窺える。

GS業界でも、その大半は同族経営の中小企業が占めており、大抵は親から子へと事業が受け継がれてゆくのだろう。ただ、GS業界は着実に斜陽化に向かっており、果たしてあと何年続けられることやら。これから経営をバトンタッチされる子息は、間違いなく“イバラの道”を歩むことになろう。私の知る同業者の中にも、「もうオレの代でおしまいだよ」と自嘲気味に語る人がちらほらと。

そんな苦境の中で高まっているのが「中小企業不要論」。政府の成長戦略会議で菅首相のブレーンとされるデービッド・アトキンソン氏は、「日本経済の生産性が低いのは、中小企業の生産性の低迷が大きい。大きくなれない中小企業は消えてもらうしかない」と主張している。随分と乱暴なことをおっしゃるものだなとも思うが、それなりの理屈があってのことらしい。ただ、彼が提唱してきた「観光立国戦略」も、コロナで吹っ飛んでしまったけれど…。

閑話休題。いまや、経営者の高齢化と後継者難にコロナ禍が重なり、「あきらめ型」と言われる廃業が増えつつある。GS業界はこれに加えて、EV社会の影にも怯えながら今後の経営の進路を見定めて行かなければならない。このままガソリンを売り続けるべきか、業態変換を図るべきか、図るとすればどういう形にしたらいいのか。そのための資金は?人材は?

こうしたことの道筋もつけないまま、「あとは頼んだぞ」と丸投げするのは、ちょっと無責任な気もするが、逆に、新しいリーダーにすべて任せて、自分は「カネは出すが、口は出さない」という姿勢を貫いたほうが賢明なのかもしれない。ただ、これはこれでなかなか難しい。そもそも「後継者難」を引き起こしている理由が、いつまでもその座を譲ろうとしない現経営者にある場合が少なくない。「邪魔だと言われれば老害が粗大ごみになったのかもしれないから、掃いてもらえばいい」とおっしゃる方もいるが、そういう御仁に限っていつまでも頑張っていて、気が付いたら人材が全然育っていなかったりする。事業承継は、する側にとっても、される側にとってもなかなか難しいものなのだ。

結びは、後継者に関する含蓄ある旧ソ連のジョークで。フルシチョフが権力の座を降りる時に、後継者に2通の手紙を渡してこう言った。「困った事態になったらまず最初の1通を開きなさい、そしてまた困った事がおきたら2通目の手紙を開きなさい」。後継者はやがて困った事態に遭遇、さっそく1通目を開いてみた。そこには、「私のせいにしなさい」とあった。それで、彼はその通りにして危機を切り抜けた。やがて2度めの危機を迎え、2通目の手紙を開いた。そこにはこうあった。「あなたも2通の手紙を書きなさい」─。

 

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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