1997年製作のアメリカ映画「陰謀のセオリー」。メル・ギブソン演じる主人公ジェリーは、ニューヨークのタクシードライバー。夜な夜な乗客に、「あの事件の黒幕はCIAなんですよ」みたいな“政府陰謀説”を語って聞かせる変人。そんな彼は、周期的に書店に行き、毎回同じ本を買う。それは、サリンジャーの「ライ麦畑でつかまえて」。おかげで、ジェリーのアパートの書棚は「ライ麦畑…」だらけ。ジェリー自身、なぜ同じ本を買い続けるのかわからない。さらに彼はジュリア・ロバーツ演じる法務省の女性検事に付きまとうストーカー。かなりヤバい奴だ。実はジェリーはかつてCIAの特殊訓練を受けた暗殺者であり、洗脳処置を施され、自分が何者か分からないまま、女性検事を“監視”させられていたのだ。その背後には国家的陰謀が…。そして、CIAは彼の居場所を常時監督するために、定期的に書店に行って「ライ麦畑…」を買わせ、すぐさまオンラインでCIAに通知されるようにしていたのだ─。
あるニュース記事を読んでこの映画のことを思い出した。『ポイントカード最大手の一つ「Tカード」を展開する会社が、氏名や電話番号といった会員情報のほか、購入履歴やレンタルビデオのタイトルなどを、裁判所の令状なしに捜査当局へ提供していることが内部資料や捜査関係者への取材で分かった。「T会員規約」に当局への情報提供を明記せず、当局も情報を得たことを本人に知られないよう、保秘を徹底していた。Tカードの会員数は日本の人口の半数を超える約6700万人で、提携先は多業種に広がる』─1月20日付「共同通信」。
つまり、住所や生年月日のみならず、その人がどんな映画や音楽を視聴したか、どんなゲームで遊んだか、どんな料理を食べたか、どんな薬を買ったかなどの行動パターンが、ポイントカードのデータによって政府機関に把握され、調査されるかもしれないということ。ただし、「刑事訴訟法」197条2項には「捜査については、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる」とあるので、違法ではないし、やましいところがなければ、気にする必要もないのかもしれないが、ちょっと気味の悪い話ではある。ちなみに、図書館の場合は、思想の自由を守るため、図書館法により個人の借りた本の履歴を捜査機関に令状なく任意で開示することは禁じられているのだそうだ。
猫も杓子も“キャッシュレス”の昨今だが、クレジットカードやICカードによる決済を政府が進める背景には、ビッグデータの活用によって国民を管理・統制するという隠れた意図があるのかもしれない…なんて言ってる自分も、冒頭で紹介したジェリーみたいだ。むかし、石油業界のいろいろな出来事を、何でもかんでも“それは石油メジャーの陰謀だ”と断ずる業界人がいた。彼曰く“この世界は、少人数のエスタブリッシュメント(支配階級)が牛耳っている。その円卓を囲む一人が石油メジャー”と。ほら話も、スケールが大きければ大きいほど、もっともらしく聞こえるから不思議なものだ。彼は“9.11同時多発テロも、対テロ戦争を拡大するための口実作りのために仕組んだCIAの陰謀で、そうさせたのは中東での石油利権を守りたい石油メジャーだ”とも言っていた…。
それはともかく、GS業界にも少なからぬ影響を及ぼしているキャッシュレス化問題。まるで、マスコミも、現金決済は時代遅れのように報じているが、そもそも日本でキャッシュレス化が進むことで得をするのはだれなのか?中小小売店?とんでもない。端末導入コスト、利用手数料、資金化までのタイムラグなど、クレジット化していいことなんかほとんどない。じゃあ信販会社?彼らは一方で手数料の引き下げを求められており有難迷惑していると聞く。銀行業界?確かにATM維持管理などのコストが軽減されるので通貨の電子化は歓迎すべきことだが、一方で伝統的な法定通貨での給与振込や企業間の取引代金振り込みの手数料収入は大打撃を受ける可能性がある。そうなるとやはり得をするのは…。「陰謀のセオリー」、観てみようかなという方、お近くの「TUTAYA」へどうぞ。「Tカード」をお忘れなく。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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