vol.822『2030年代半ば…』

『政府は2030年代半ばに国内の新車販売を全てハイブリッド車(HV)や電気自動車などの電動車(EV)に切り替え、ガソリン車の販売を事実上禁止する目標を打ち出す。50年までに二酸化炭素など温室効果ガスの排出を実質ゼロとする政府目標の実現に向け、「ガソリン車販売ゼロ」に踏み込む。経済産業省が10日、自動車メーカーや有識者との会議を開催し、協議の結果を踏まえ、こうした方針を正式表明する』─12月3日付「毎日新聞」。
 

この報道に対して、小泉環境大臣は4日の記者会見で、「30年代半ばという表現は国際社会では通用しない。半ばと言うなら35年とすべきだ」と述べ、販売禁止の時期を明確に示さなければ理解は得られないとの見解を示したとのことで、早くも“ホントに実現できるの?”感が漂い始めている。欧米各国が次々にガソリン車販売禁止をぶち上げている中で、日本も追随せざるを得なくなったのだろう。
 
だが、実現のためにはクリアしなければならない問題がたくさんある。まずは、HVはともかく、EVが増えてゆくのに伴い、その電力をどのように供給してゆくのか。仮に、日本全部の乗用車を全部EVに変えてしまうと、日本全体の消費電力量は10㌫程度増加するというざっくりした試算が出ている。いま、日本の電力供給の約75㌫は火力発電によるものだが、よもやこの割合を増やしてまかなうなどというような本末転倒のことはしないであろうから、それ以外の電源を増やす必要がある。
 
菅首相は、「2050年までに温室効果ガス排出を全体でゼロにする」という目標を掲げたが、この目標を達成するために、原子力発電所の再稼動、あわよくば新規建設ももくろんでいるのではないだろうか。おりしも、先日、大阪地裁において、地震に対する安全性に問題があるとして、関西電力大飯原発3・4号機の設置許可の取り消しを国に命じる判決が下されたばかり。今後は“環境対策としての原発”を強くアピールして、巻き返しを図ろうとしているのではないか。
 

また、EVそのものにも、 長距離運転の不安、数十分もかかる充電時間、リチウムイオンバッテリーの寿命、高額の車体価格など、クリアしなければならない問題点が幾つもある。EVの製造コストの約半分はバッテリーだが、その製造に欠かせないレアメタルを求めて資源開発競争が激化すれば、新たな環境破壊が生じることは想像に難くない。割を食うのは発展途上国。EV社会とは、先進国と大企業によって描かれた都合のよい幻想のように思える。
 
ネット上でも、「田舎にとってクルマはサンダルや長靴のようなもので、高級な革靴のような贅沢品とは違う。ガソリン車の税率を上げるなどの愚挙は企まないでほしい」とか、「ガソリン価格の半分以上が税金なのに、自家用車が全て電気自動車になったからって家庭用電気に税を掛けたら、自宅で充電しないユーザーとの不公平な税制となる」とか、「ガソリン車では約20000点の部品が使わているそうですが、電気自動車はその10分の1になるとか。その時、部品を含めた自動車産業で働いていた人たちはどうなるんでしょうか」など、ネガティブな意見が多い。とにかく、難問山積といった感じだ。
 

GS業界は、来るべきEV社会でも必要とされる存在なのか。「給油所」がそのまま「給電所」としてインフラの一翼を担うのか。そうであれば、設備投資にかかる資金に対する支援が期待できるのか。ドイツではすでに、国内の全給油所に充電スタンドの設置が義務付けられており、2030年までに100万台の充電スタンドネットワークを整備するという目標に向けて走り出している。日本はといえば、いまのところ「2030年代半ば」と言っただけ。それだって、本当に実行する気があるのかどうかよくわからない。本気度が全然伝わらないのだ。

 

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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