「アイダ・ターベル、ロックフェラー帝国を倒した女性ジャーナリスト」(古賀純一郎、旬報社刊)という書籍が2016年に刊行されていました。知らなかった。
早速購入して読んでいます。高名な方なので名前は知っていますが評伝は初めて読みます。ターベルは今でいう調査報道でフランス革命の人物像を描く書籍で評価を高めたジャーナリストです。その彼女が、19世紀後半から20世紀初頭に全盛を誇ったJ・D・ロックフェラー率いるスタンダードオイル(現エクソンモービル)を徹底取材して、独占的な経営手法を糾弾しました。

ロックフェラーに関しては2000年刊行の「タイタン:ジョン・D・ロックフェラー・シニアの生涯」(ロンチャーナウ、日経bp)があります。上巻だけで高枕になるほどの大部ですが非常に面白いエピソードに満ちており、かつ、最も中立的にロックフェラーを評論したと言われます。
タイタンにおけるターベルは、かなりエキセントリックな女性として描かれています。「アイダ・ターベル」の筆者は、タイタンがロックフェラーの独占行為に対して手ぬるいと感じているようです。
ちなみにアイダ・ターベルはペンシルバニア州で生まれ育っています。タイタスビルの近くです。タイタスビルは、エドウィン・ドレークが世界初の原油機械掘りに成功した、石油産業発祥の地です。私は30年前に訪問しましたが、豊かな森に囲まれた田舎町です。ピッツバーグから双発のプロペラ機で気流に揺らされながら飛びました。
ターベルの家族は農家でしたが、石油採掘が始まると、先見性のある父親が輸送用の木樽(バーレル)工場で大量生産して裕福となります。樽がドラム缶に変わると、独立系企業として石油生産でも実績をあげます。
しかし、スタンダードオイルによる独占支配体制で独立系が締め上げられると、徹底抗戦しますが一敗地にまみれます。
ターベルには苦闘する家族の姿が執筆のモチベーションになったことでしょう。
ターベルが指弾したスタンダードオイルの「手口」はこうです。
1・石油精製への特化と拡大
これはロックフェラーの慧眼といって良いと思います。リスクの高い原油採掘よりも製品供給で利益をあげる精製に特化します。ここで販路を大きく拡大します。
2・公共鉄道会社の実質支配
取扱量=輸送量が増えるほど、鉄道にとってスタンダードオイルは無視できない存在となります。スタンダードはそれを逆手にとって輸送量からリベートを要求します。
リベートは拡大解釈で独立系産油業者の運賃からも支払われる(!)ドローバックにエスカレートします。そして自社運賃は安く抑えます。
3・ターミナルを独占
鉄道会社のターミナルまで実効支配します。これでどの業者が何処にどれくらい輸送しているか、情報を完璧に掌握します。
4・略奪的な競争
競合する石油会社が軍門に下らない場合、徹底した価格競争を仕掛けます。40%も安く売ったそうです。相手は地域企業、スタンダードは全米企業なので他州で利益をあげています。さらに競合石油会社のディーラーに“業転”を突っ込みます。
「熱汗商法」という熱湯で相手を締め上げる過酷な戦略です。
5・独立系の買収
運賃で生産マージンが吹き飛ぶほどとなり、スタンダードの軍門に下る独立系生産業者が続出します。労せずして(ローリスクで)油田を確保します。
鉄道の天敵となるパイプライン事業者が登場すると、原油が行きつく精製会社を買収します。結果、パイプライン網も入手します。
…ほんの一部ですが。でも、
① 精製特化=日本の元売
② 鉄道支配=物流の系列化
③ ターミナル支配=流通経路証明
④ 略奪的な競争=今年3月以降
どうしても21世紀の日本とイメージが重なります。略奪的な競争で「相手より40%安売り」は3月中旬の系列非系列格差にほぼ該当します。
120年前の米国は、ターベルの凄まじい批判がきっかけとなり、スタンダードオイルを34社に分割解体させました。日本は2大元売80%支配構造が心地良いようです。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局