vol.644『食品ロス』

節分に食べると縁起が良いとされる太巻き寿司、「恵方巻き」。「恵方」というのは、その年の干支によって定められた福をもたらす方角のことで、今年は「北北西」だったそうだ。恵方巻きは切り分けずに、一本丸かぶりすることになっているが、これは「縁を切らない」という意味があり、七福神にちなんだ かんぴょう、きゅうり、うなぎなどの七種類の具を「巻き込む」という願いも込められている。
恵方巻きの起源は、江戸時代末期、大阪の船場で商売繁盛を祈願する風習だとされているが、正確なことは分からないらしい。しばらく廃れていた風習だったが、1970年代後半に大阪の海苔問屋組合がイベントとして復活させた。コンビニで恵方巻きが売り出されたのは1983年に「ファミリーマート」の大阪と兵庫の店舗に並べられたのが最初らしいのだが、1998年に「セブン-イレブン」が全国販売を開始したのを契機に、一気に広まった。

「恵方巻きキャンペーン」は年々ヒートアップしており、コンビニスタッフを苦しめているとの報道もある。「NHK NewsWeb」によれば、ツイッターには、「(2月3日までに) 50本売るよう指示され、20本は家族に買ってもらうしかない」など、ノルマを課されたアルバイトの学生の書き込みが相次いでおり、過酷な実態が浮かび上がっているという。また、フランチャイズ店のオーナーは取材に対し、「毎年、恵方巻きの時期になるとどれだけ売れ残るかと胃に穴が開きそうです。本部にとっては加盟店に仕入れさせたら全部利益になりますが、私たちにとっては本部は絶対で消化しなければなりません」と話している。

コンビニでは、夏はウナギ、秋はおでん、冬はクリスマスケーキやおせちと、息つく間もなくノルマが課され、一年中しんどいとの声もある。恵方巻きのノルマが達成できず、自殺者が出るようなことになれば、「電通問題」の次は、「恵方巻き問題」として国会で取り上げられるかも。一方、コンビニ大手の各社は、「各店舗は本部とフランチャイズ契約を結んでいるものの自主的に営業しているため、本部が店舗にノルマを課したりアルバイトに買い取りを強制することはない。また、アルバイトに無理な負担を強いないよう店舗に対して指導している」とコメントしている─。

そんなこんなで今年も恵方巻き商戦が終わり、気がつけば売れ残った恵方巻きの山が…というコンビニは少なくないだろう。SNS上には、画像と共に、「豆じゃなくて恵方巻で鬼撃退できそうな量の廃棄」なんて投稿もある。笑ってしまうが笑い事ではない。何ともったいないことか。日本では、まだ食べれるのに捨てられる食料は、毎年632万㌧と推計されている。これは東京都民1、300万人が1年間に食べる量に匹敵するものだという。つまり、売れ残りの食料だけで、東京都民は毎年食べて行けるというわけ。

別の比較をすると、この数字は、世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた食料援助の約2倍の量なのだ。食料自給率が4割に満たない国で、こんなに食べ物を粗末にしたら、いずれ“ばち”が当たるだろう。日本を上回る年間700万㌧の食品ロスを出していたフランスでは、昨年2月に全国の大型スーパーに、売れ残りの食料の廃棄を禁じ、慈善団体への寄付を義務付ける法律が成立した。この法律によって、どれぐらい食品ロスを減らすことができたか定かではないが、貧困家庭への救済策としても注目されており、日本でも何らかの法的な措置を講ずるべきとの声が高まっている。

その点、GS業界は商品に消費期限などないから、廃棄コストに悩まされず、食品業界より恵まれている気もする。その代わり、何をどれだけ仕入れて、いついつまでに売り切る─という緊張感がまったくないため、メリハリなく、だらだらと価格競争を続けている。その結果、GSはどんどん潰れてゆき、その跡地にコンビニができるという有様だ。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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