COCと独立経営<885>カーケアは高度化投資に向かう – 関 匤

4月10日付日本経済新聞に「グッドスピード(以下GS社)へのTOB、宇佐美鉱油が11日から開始」という記事が出ました。

GS社は愛知県名古屋市本社の中古車販売企業で東証マザーズ市場に株式上場しています。宇佐美鉱油はまず24%を保有する創業経営者から株式を取得し、その後に一般株主から公開買い付けして完全子会社化すると報道されています。
GS社は東海地区主体に49店舗を展開しており、SUV、4WD主体の品揃えプラスハーレーダビッドソン正規代理店も擁します。また愛知県大府市でコスモ系(カーケア複合店)1カ所だけながらSS業界とつながりもあります。2023年9月期で売上高478億円、営業利益19億円、四輪車販売台数1万2500台。純利益は僅かながら欠損を計上しています。

中古車販売業界では、昨年、ビッグモーターの様々な不正が社会問題化しています。GS社も保険金不正請求が発覚したうえに、売上金の先行計上を経営陣はじめ会社ぐるみで行っていた「事件」を起こしています。
後者に関しては、顧客への納車時点で建てるべき売り上げを、未納段階で計上していました。6年間で5951件に上ります。「納車テイ」と呼ばれています。監査法人の棚卸の際には本社人員も手伝って、未納車を駐車場に移動させていたそうです。相次ぐ不祥事で株価は半年で半値に暴落し、決算の目途が立たない状況にあります。

一方、宇佐美鉱油のTOBが成立すれば、上場廃止されて同社の戦略に沿った新たな展開が始まります。宇佐美鉱油はSS店頭販売の飽和化に対応して、最近10年ほどの間に直売(パトロール給油)大手・中堅企業にM&Aをかけて、中間品流通に新しいチャネルを確立しています。SSもかつての軽油ステーション一色と違って、明らかにガソリン給油客を意識しています。SS業界の車販は確実に伸長していますから、GS社買収で自動車市場への本格展開が始まるでしょう。

と書いていたら、伊藤忠商事によるビッグモーター買収が決まりました。再生ファンドと共同出資で600億円を投じて250店舗を傘下に入れて、数年後にファンドから株式を買い取るそうです。
伊藤忠はヤナセなど自動車関連企業を擁しますが、当然、石油の伊藤忠エネクスも中古車流通拠点に位置付けられます。

投資の兆候が出ている

補助金支給以降、SS業界のマージンは確保されています。その利益を背景に、SS新設やM&Aなど投資する企業が散見されます。
前回述べた米国では、コンビニの優勝劣敗により新しいシステムや商品開発投資のできないチェーンが撤退(M&A)しています。日本の場合は、自由化時にコンビニやファーストフード業界は流通系企業がFCや直営体制を固めており、到底独自の新規参入はありませんでした。そこでSS業態の大勢は、既存油外販売の延長線上に車販などカーケアビジネスを形成してきました。

米国でコンビニの高度化競争に入っているように、日本のSSはカーケアの高度化競争にすでに突入しています。ビッグモーターやGS社の不正があっただけに、車検整備、車販はじめカーケアアイテム全てにおいて顧客本位のガバナンスが求められます。

SSカーケアというよりも自動車販売業界全体に「高度化」がキーワードとなるでしょう。かつて不動産営業、証券・商品営業など悪いイメージの業界が、問題を起こしながら法的整備もあってかなり「きれいな業界」になっています。自動車販売業界も様々な問題を起こしてきましたが、これから正直な営業に向かうはずです。そのためにシステム、機器、車両在庫の強化など高度化投資の差が、米国コンビニと同じくSSカーケアの優勝劣敗を左右するでしょう。

COC・中央石油販売事業協同組合事務局


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