COCと独立経営<564>元売の事業ポートフォリオ-関 匤

固有社名を出しますが、伊藤忠エネクスという最大手石油流通企業があります。私など昔の伊藤忠燃料のイメージが強すぎたので、つい「忠燃」と呼んでしまいます。上場企業なので経営データを見ることができます。ヨイショするつもりは毛頭ありませんが、事業ポートフォリオがバランスよく構成されています。

事業軸は、カーライフ(石油)・ホームライフ・エネルギーイノベーション・電力からなります。ある時期から選択と集中が行われて、電力部門への投資に傾斜しています。16年度の電力部門の売上構成比はまだ9%です。ところが全社営業利益の33%を稼いでいます。

一方、SSのカーライフ部門は売上げの67%、利益の21%です。「忠燃」の頃は、向う傷を気にせず猛烈に売りまくる印象がありましたが、今は利益重視、違う言い方をすればヒト・モノ・カネの組み替えをやっているのかなと感じます。石油需要成熟と利益低下に対して、電力事業がヘッジして全体のバランスを作っています。

端的に言えば、伸びる分野と伸びない分野でメリハリの効いた戦略と投資を考えているようです。中で働く社員は大変だと思いますが。

さて、出光・昭和シェル統合に反対する創業家が意見を公表しています。是非はともかく、その中に「業界論」として興味を引く部分がありました。
「(好決算は)石油価格の上昇と円高が主たる要因であり、決して経営陣の力量によるものではありません。在庫影響を除いた営業利益は前年度を下回っています。」

出光にかぎらず10年ほどの元売決算は、原油価格と為替に連動しています。石油会社の宿命と言えますが、分かりやすいほど損益は原油市況と一蓮托生です。

問題は、元売がヒト・モノ・カネを持ちながら、市況変動をカバーする有効な事業軸が確立していないことです。石化事業も市況商品の素材中心で、一部に利益商品もありますが、石油事業を補完するほどのスケールがありません。

住友や旭化成など本職の石化企業は、利益率の低い素材の売上構成が高い一方、製薬、繊維、電子素材、住宅など非素材で利益の八、九割を稼ぐ構造を作り上げています。

高度化法から石油再編まで、市況商品のガソリンが中心テーマです。市況商品を供給縮小や競争者の削減で行うのは、消費者不在で不健康な話です。PBに出荷する・しないといった供給の蛇口操作の話ばかりですから。元売が利益事業軸を確立していないから、市況論しか出てこない業界になっていると思います。

「市況波乗り経営」から企業をどう再構築するのか、といった話の方がビジネス論として健康的ではないでしょうか。まして、どう見ても元売よりはるかに資本力が小さい、販売業界の伊藤忠エネクスが、10年余りで事業を組み替えているのですから。

COC・中央石油販売事業協同組合事務局


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