振り込みで「みずほ銀行」に行きました。ふと思ったのはこの銀行、20世紀までは「第一勧銀」「富士銀行」「日本興業銀行」だったんだと改めて感慨にひたりました。
興銀の産業調査部には若手の理論派が集まっていて、とりわけ石油産業には思い入れを感じました。彼ら(当時女性アナリストは存在せず)とは酒を酌み交わしながら、本音の思いを聞くことができました。私ごとき相手でも本音をぶつけてくるので、非常に勉強させていただきました。しかし、今や興銀の商標を思い出せません。
みずほ以外にも、「東海銀行」「太陽神戸銀行」「三和銀行」「大和銀行」「北海道拓殖銀行」「埼玉銀行」がありました。「東京銀行」もありました。三井住友や三菱UFJには財閥商標が残っていますが、かつての都市銀行の行名や商標を記憶している人はまずいないでしょう。
総合商社も「九大商社」は今は昔、日商岩井、ニチメン、トーメンの商標は姿を消して、兼松江商は兼松になりました。鉄鋼も、新日鉄、住金、川鉄、日本鋼管の社名が消えました。
同じように、石油元売も原形がなんであったかは石油ムラの住人でなければ分かりません。四半世紀の間に銀行も元売も再編が続いて、結果、ブランド名が消費者にどれほど認知されているのか分かりません。
「ENEOS」商標は、三菱石油との合併による統一商標として2001年に誕生しています。歴史は約四半世紀です。
旧日本石油は1888年の創業総会時に飛び込んできた蝙蝠(こうもり)にあやかって「コウモリ」を商標としました。蝙蝠の漢字から「福を呼び込む」にちなんだそうです。三菱石油は外資提携で1931年の創業です。三菱のスリーダイヤモンドを商標としていました。
つまりENEOSブランドは、旧日石、旧三菱石油よりもはるかに歴史が浅いということになります。
現時点のブランドで言えばコスモ石油が1986年の誕生ですから、商標の「コスモーバル」がSS業界で一番の歴史となります。出光は昭和シェルとの再編で「アポロステーション」ブランドとなりました。消費者が旧出光のアポロを想起しているかは分かりません。
長々と書きましたが、ようは現状の元売ブランドは銀行、商社、鉄鋼と同じく“歴史が浅い”ということです。
ようやくマーケティングの話になりますが、一部報道によると、ENEOSが諸般の事情により三菱商事、KDDIとのローソン提携を断念したそうです。
ENEOSがどういう戦略展開を考えていたなんて分かりません。私は個人的関心から手練手管を駆使して、国内のコンビニ併設SSをカウントしています。約400カ所あります。うち最大勢力は旧エクソンモービルが2004年に提携したENEOSのセブンイレブン併設店です。
これがありながらローソンと包括提携するからには、ENEOSは急激に併設戦略を展開したはずです。三菱商事、KDDIとのかねあいがあり、しかもSSは顧客誘引の窓口として非常に重要な役割を担うことが義務付けられますから。伊藤忠商事が消費者との接点を強化する戦略の要としてファミリーマートを位置付けて、岡藤会長肝いりの「第8カンパニー」が存在するように。
ここでコンビのブランドと元売のブランドです。セブン、ローソン、ファミマいずれも1975年前後に登場しています。ENEOSブランドの倍以上の歴史を持ち、しかも誰が調査してもブランド認識は元売よりもはるかに高いでしょう。セブンに至っては日本はもちろん米国でトップブランドです。
となれば、SS+コンビニ展開の正しいブランド戦略は、コンビニブランドへの統一ではないでしょうか。今は無きブランド、旧昭和シェルが中途半端に展開しましたが、元売ブランドを消したローソンブランドSSこそが最適解と考えます。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局