日本でも知っている人が少なくないのが米国の「バッキーズ」です。ジェトロ(JETRO、日本貿易振興機構)のHP「ビジネス短信」にこんな記事がありました。(要約)
「米国ガソリンスタンド大手バッキーズ(本社:テキサス州レイクジャクソン)は6月10日、同州ルーリング市に、同社最大面積の店舗をオープンした。店舗の面積は7万5000平方フィート(約7000㎡)で、国際試合に使用されるサッカー場の広さに匹敵する。給油機は120台」
ジェトロとしては日本の石油業界向けに“米国トピックス”としてHPに紹介したのでしょう。残念ながら、今の石油ムラでこういうニュースに反応する方は皆無に近いでしょう。
「同社最大面積」は世界最大です。店舗というのはコンビニエンスストアです。コンビニと言っても店内調理の本格的なフードサービスが豊富に揃い、アパレルやグッズ類もオリジナルです。大型のモールです。給油機120台は超弩級です。
今回の新店で50店舗目。現在の業態「トラベルセンター」は2003年からの展開です。7割がテキサス州にあり同州でのブランド認知度は非常に高いものがあります。そのため社名や商標の類似チェーンが出現して訴訟となっているほどです。
データは2019年のものですが、石油価格情報会社OPISが行った「ガソリンランキング」があります。コンビニ業態部門でバッキーズは「マーケット影響力」で断トツの首位となっています。
影響力とは、販売シェアが店舗シェアの何倍売っているかです。言い換えれば平均の何倍売るかです。バッキーズは「7.8倍」です。計量機の数からも店舗平均で月に1万前後と推測されます。
とまあ、こんなニュースに興奮するのは私くらいでしょう。石油ムラは「市況の維持」だけ唱えておけば生きていけるようですから。
残念なことは、本当ならバッキーズのような小売り業態は日本で出現してもおかしくなかったのです。優秀な日本人経営者が万単位もいながら、SS業態の進化、革新に本気で取り組む人がいなかった。いても“業界秩序の破壊者”として排除されました。
何度も書いてきましたが、第一次石油危機まで日本のSSは欧米とほぼ同一歩調で進化していました。しかし、天下の悪法・揮発油販売業法と様々な規制、加えて石油危機時の緊急対策であったガソリンに利益を乗せる標準価格制度が、なし崩し的に1996年の自由化まで続いてしまいました。
この“失われた四半世紀”によって、ガソリン市況を声高に唱える人たちが世論を形成し行政制度を誘導しながら、業態進化の芽を抜く結果をもたらしました。
この悪しき業界構造が動いていた1976年、米国西海岸で廃格納庫を店舗に中小企業向け食品販売を行う「プライスクラブ」がオープンしました。やってみたら、法人限定なのに入店したがる一般消費者が多かったので、それならと1983年に「倉庫店」が誕生します。日本の石油ムラが大好きなコストコです。
先述のバッキーズ創業が1982年ですから、同時期に方やディスカウントストアの、方やコンビニのカテゴリーキラーが誕生しています。
コストコは言うまでもなく、今や日本全国自治体の“アイドル”です。誘致活動で引っ張りだこです。南アルプスでは12万㎡の敷地ですが、大規模農産物直売所、飲食店、物販店を集積した「ヒカレヤマナシ」(地元企業連合)がコストコと一体化しています。他にもたくさん候補地の名前が飛び交っています。
ひるがえって、自治体が「高いガソリンを売る会社を誘致しよう!」ってことは間違ってもありませんね。(補助金の額次第ではアリ)
コストコもバッキーズも社歴を考えれば、日本の経営者でも同様の業態開発は可能だったはずです。やはり、消費者を見る目線が違うのでしょうね…。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局