過日の拙稿にて、業界モデル小説の「石油会社消滅す!」を紹介しました。
すると油業報知新聞から「関さんへ筆者の平一生さんからお礼のメール来ています」と連絡がありました。私のへたくそな書評に喜んでいただいたようです。私に転送されたメールには画像が添付されていました。大手書店で平積みされていました。凄いですね。書店が売る気満々です。モデルになった会社内ではベストセラーでしょうね。
たまに、付き合いのあった元売OBの方々と一献傾けながら楽しいひと時を過ごします。そこは大組織の経験者ゆえに、現役への不満や新旧役員に対する批判も飛び出します。「それなら平さんに続いて小説書けば」と皮肉を言うようにしています。
石油産業では、ごくまれに書籍が出ますが霞が関や業界団体の意向を組んだ(忖度した)ものであったり、識者と呼ばれる方による上流主体の小難しい論文であったりします。業界の内実を浮き彫りにするものがありません(怪文書を除く)。20兆円の産業規模にしては寂しくありませんか?
一方、金融業界はきら星の如く著名な作家が登場しています。池井戸潤(半沢直樹)、江上剛(金融腐蝕列島)、黒木亮(巨大投資銀行)、外銀の幸田真音(日本国債)…現職ながら横浜銀行の内実を面白おかしく描いた横田濱生(『はみ出し銀行マンの勤番日記)という人もいます。銀行OB以外では、松本清張、山崎豊子、城山三郎、清水一行、高杉良、相場英雄、真山仁…等々の作家が金融業界を描いています。
私の想像ですが、銀行業界は官僚も含めて作家さんの取材に対応する人が多いのでしょう。業界の内情が分からなければ書けませんから。そして「お金」を商品とするだけに、そこにはおぞましい人間の欲望と憎しみが、銀行内部にも取引先との間にも充満します。小説の舞台になりやすいのでしょうね。
方や石油ですが、平さんの小説でも描かれますが、ビジネスモデルがどの会社も同様であり、完成品を流通させるだけなので商品企画や開発話もなく、結局、人事が最大の関心事になりがちです。“あいつ嫌いだから飛ばしてやったよ”なんて下世話な話ばかりだと、作家先生の創造力を刺激しませんね(「はみ出し銀行マン」的な面白本はありですが)。
もっとも、百田尚樹が出光佐三をモデルにした「海賊と呼ばれた男」はベストセラーとなり、山崎貴監督(ゴジラ―1.0)の映画も大ヒットしました。この小説のモチーフとなった「イラン石油輸入事件」に関しては先例がありまして、石原慎太郎が1960年に「挑戦」を上梓しています。
また、有名なところでは城山三郎が1972年、エッソマネプラSS運営者の苦悩を描いた「うまい話あり」があります。業転を買っているマネプラ経営者など半世紀前のSS経営が赤裸々に描かれています。
しかし、いずれも作品の舞台はオイルショック以前の業界です。以降は、平氏の著作まで書店で売られる作品は(私の知るところ)皆無です。私が持論として述べていますが、オイルショック以降の業界構造は小説(ロマン)を生み出す余地が消滅したのかもしれません。
正確を期します。2冊出ています。まず、1976年に高杉良が出光興産のモデル小説「虚構の城」を書いています。主人公と出光の組織風土との人事的な軋轢がテーマですが、「海賊」とは違って出光が激高する内容です。
もう1つは「あまい石油」です。著者は福田達男。ご本人が油化会社で働いたプロによる「業転小説」です。業転営業マンが主人公ですが、流通の底と闇の深さに翻弄されます。男女の機微も上手に描かれて、素人作家ながら読ませてくれます。日本経済新聞社から出版されたのもむべなるかなです。
業界小説というのは、案外、その業界のダイナミズムのバロメーターかもしれません。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局