燃料電池車(FCV)の新車販売が驚異的な伸びを見せています。絶好調です。
今年1~9月販売は前年同期比206%。単月では1月と9月が330%前後に達しています。「水素社会」がいよいよ幕を開けます。…ただし、1~9月のFCV販売台数合計は「582台」ですが…(笑)。
FCVは、10年前にメディアが盛大にお囃子を鳴らして「究極のエコカー」として威風堂々の登場でした。なにしろ燃焼時に排気ガスゼロで水しか出ないという画期的なCO2ゼロカーですから。
しかし、自動車検査登録情報協会による令和6年3月末現在の登録台数は7746台です。これ10年間のトータルです。
片や、同じエコカーでも2020年5月に販売された日産の軽乗用EV・サクラは、EVに逆風が吹いてはいるものの、今年1~9月で累計1万8266台を販売しています。
同期比でFCV 「31倍」です。また、サクラは9カ月で10年分のFCV保有台数の2.4倍を新車販売したことになります。
FCVのミライが登場した時に、COC会員も関心とともに“ガソリンのミライ”を心配しました。
そこでFCVの研修会を開催したのですが、お呼びした某講師は「ミライはミイラになる」と喝破されました。今さらながら感心しています。
これも鳴り物入りで登場した水素ステーションですが、国内に157カ所あるそうです。
そのうちトヨタのFCV専門サイトで確認したところ、「営業中」は88カ所でした。半分が“お昼寝中”です。
FCV登録台数を営業中のステーション数で割ると、1カ所あたり「83台」の台数となります。面白い数字があります。1955年(昭和30年)のSS数です。1729カ所です。
当時の乗用車保有台数が15万7800台です(JETROデータベース)。
SS数で割り返すと1SS当たり台数は「91台」となります。ステーションとFCVの関係は、1955年のSSと乗用車台数にほぼ匹敵します。
もっとも、55年時点でSSは1県平均37カ所に対して現在のFCVステーションはわずか2店舗です。その後、SSは倍々ゲーム的に増加して1961年に1万カ所を突破します。乗用車保有台数は10年後の1966に約15倍、229万台に達しています。
FCVは国と自治体の補助金含みでも500万円以上という大きな壁があります。ステーションが少ないこと以前に、環境以外に自動車としての魅力、売り物が見当たりません。環境を意識するなら充電インフラはまだ少ないながら、消費者はサクラを支持しているということです。というか、官公庁が環境PRのアリバイ作りに買うような車に魅力はないですね。
YouTubeで興味深い動画を見付けました。1936年(昭和11年)に日産が、ダットサンの新車発表時に制作したPR映画です。「ダットサンニュース~「ダットサンセダンで箱根へドライヴ」というタイトルです。
東京・京橋の新車展示会には、ジャズバンドが演奏する中、夏川静江など女優がゲストに呼ばれ数多くの来訪者で盛況です。興味津々で車を見つめる学生や女学生の姿もあります。性能をアピールするために、当時、自動車の難所と言われた箱根ドライヴを敢行しています。運転者はきれいな女性です。
また、当時国内で行われていた自動車レースの模様は、歴史的映像と言えます。
さて、このダットサン新車の価格ですが、展示車に「ダットサンクーペ1900円」と価格表示されていました。
当時の大卒初任給50円で換算すると、1900円は「760万円」となります。これってミライの車両価格とほぼ一致します。
でも、車の魅力、楽しさに対する消費者の熱狂において、FCVは80年以上前のダットサンに完敗です。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局