将棋界の最多連勝記録を30年ぶりに塗り替えた最年少棋士、藤井聡太四段(14)が、今月2日に行なわれた竜王戦決勝トーナメント2回戦で佐々木勇気五段(22)に敗れ、デビュー以来続いていた公式戦連勝記録は「29」でストップした。藤井君の地元である、ここ愛知県では、将棋のルールすら知らない人まで“聡太クン、がんばれぇ”と熱い声援を送っていた。(苦笑) このような「天才少年少女」が登場すると、決まって生じる現象がある。このたびも、我が子を将棋教室に入会させようとしたり、藤井君が幼少期に受けていたモンテッソーリ教育の幼稚園に通わせようとする親が急増しているとか。あんたら、我が子に何を期待しているの? と言いたい。(冷笑)
それはともかく、経営者の中には、“先見性を養うため”とか“洞察力を鍛えるため”などという理由で将棋を趣味としている人が多いらしい。紀元前に古代インドで考案されたボードゲームが起源とされる将棋には多くの格言があり、それらが会社経営に示唆を与えると言われている。例えば、『歩のない将棋は負け将棋』。北島三郎の歌にも出てくる、最も知られた格言だが、歩は最弱の駒にもかかわらず、攻守ともになくてはならない駒であり、持ち駒として絶対に必要だということ。GS業界も、御多分に洩れず人手不足。やっとかき集めた「歩」も、成長して「と金」になる前に戦線離脱してしまうことが多い。
運送業界では、ヤマト運輸が人材確保と労務改善のため、運賃やサービスの見直しに踏み切った。今後、人手不足はますます深刻化すると見られており、GS業界も業界挙げて改善策を講じないと、他業種に有能な人材を奪われてしまうだろう。『俗手の好手』という格言どおり、妙手よりもむしろ、誰でも思いつく手のほうが好手であることが多い。適正価格を維持することが何よりなのだが、『ヘボ将棋 玉より飛車を可愛がる』で、販売量のほうが、利益よりも大切だとする考え方が蔓延しているこの業界では難しいようだ。1996年に初の7タイトル独占を達成した最強棋士・羽生善治は、自著の中で『同じ方法で悪くなる。だから捨てなきゃいけない。せっかく長年築きあげてきたものでも変えていかなくてはならない』と述べている。GS業界にも「捨てる」勇気が求められる。
一方で、『名人に定跡なし』という格言もある。名人は定跡だけに頼らず、自ら多くの手を読んで指すという意味で、定跡ばかりを鵜呑みにすることへの戒めとなっている。GS業界では、破格値で販売して集客し、会員制度で固定化させるのが「定跡」とされているが、減販スパイラルに陥っているいま、新たな「一手」を打たなければならないと、多くのGS経営者が感じている。しかし、なかなかその「一手」が見えない。闇雲に駒を進めて危険を冒したくないとだれもが思う。ここで再び羽生善治の名言を。『“まだその時期じゃない”“環境が整っていない”とリスクばかり強調する人がいるが、環境が整っていないことは、逆説的に言えば、非常にいい環境だと言える。リスクの大きさはその価値を表しているのだと思えば、それだけやりがいが大きい』─。
なるほど。さすがは名人。リスクを恐れることは勝機を逸することだと見事に看破している。凡人は常に逡巡し、躊躇し、回避してしまう。失敗したらどうしようという恐怖に打ち勝つことは難しい。持ち駒が豊富にあるならいざ知らず、そんなに何回もチャレンジできるほど余力がないのでなおのこと不安になる。特に「金」がないので…。
それにしても、14歳の少年が加熱する報道陣の前でも謙虚さを失わず、温和に受け答えする姿には、驚嘆させられる。将棋の腕前よりも、その人間性に多くの人が引き付けられたのではないだろうか。無論、内に秘めた闘争心は相当なものがあるのだろうが、まちがっても、ボビー・フッッシャーのような品性下劣な大人にはなってほしくない。いつの時代も、神様は謙虚な人間に祝福を注がれるのだから。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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