『全国でガソリンスタンドを展開するアサヒ商会(函館市)は、人工知能(AI)事業に参入する。AIを活用して飲食・サービス業の受付業務を代行する小型ロボットを販売する。ロボットは顧客の顔を識別し、従業員の手を介さずに来店時に予約照会や決済業務ができる。ホテルや美容院向けに9月から売り出し、初年度はレンタル・販売で500台出荷を目指す』─7月7日付「日本経済新聞」。
受付ロボットはダチョウの卵ほどの大きさで、重さ2.5㌔。正面に5インチのタッチパネル液晶が付いていて、店舗の顧客が自身の顔写真を登録すると、来店時に自動で認識し、受付や案内をするほか、個々の顧客に合った話題や接客サービスを提供できるようになるという。アサヒ商会は「小売業の現場は人手不足が深刻。受付ロボットは人手不足の解消につなげられる」として、この事業を積極的に展開してゆくとのことだ。
そもそも“AIってなに?”というところからはじまるが、大雑把に言えば学習と推論をするコンピュターということ。その進歩は目覚しく、近年、囲碁や将棋の名人を負かすほどである。人間は以前会った人の名前や日時、そこで交わした会話の内容などを忘れてしまうということが多々あるが、AIは蓄積した情報が多ければ多いほど、それを活用して、相手の関心のある話題やサービスを提供することができる。
GS業界では、一時期、来店した車のナンバーをカメラが認識し、スタッフに“この車の持ち主は○□様で、来月が車検月です”などといった情報をスタッフに提供するというシステムが話題となった。監視カメラとパソコンを活用して、声かけの取りこぼしをなくし、油外収益を大幅にアップさせることができると喧伝されたが、あまり普及しなかった。結局、その情報に基づいて声をかけるのはあくまで人間であり、それらの情報を効果的に活用できる人材でなければ業績には結びつかないからだ。
商品を買っていただくためには、ただ情報を伝えるだけではなく、声色や表情、物腰なども大切な要素となってくる。やがて人間型ロボットがそうした役目も担う時代が来るのだろうか。確かに、受付や案内といった仕事は、人間よりもロボットの方が向いているかもしれない。どんな時でも「イラッシャイマセ」と心地よいあいさつで出迎えてくれるロボットのほうが、ロクに返事もできない人間の店員よりずっと良い。
それにしても、50店舗以上のGSを展開する会社が、AIロボットを販売するというのは興味深い。顔認証による個別対応システムが今後進化すれば、自社のGSでの接客や案内、決済などにも活用できると考えているのではないか。私は、セルフ化が進んでいるGSでは、やろうと思えばいますぐにでも、AIによる無人運営は可能だと思う。「危険物を取り扱っているから無理」などと言っている連中は、いまから20年前に、「客に給油させるなんて無理」と言っていた連中と同じ。AIによって制御されたセンサーやカメラによって、人間よりも正確・安全にGSを監督・運営することができるだろう。問題は規制緩和がなされるかどうか。当面、無人セルフGSが認可されることは、新たな獣医学部が認可されるより困難だろう。
いずれにせよ、AIは、今後多くの職場から人間を追いやることになるだろう。何せ彼らは、眠ることなく働き続けることができる。給料や休暇も必要なし。一度学んだことは忘れず、思考し、応用してゆく。経営者にとっては理想の従業員と言えるかもしれない。いや、経営者自身がAIにクビを切られるかも。だが、それよりも心配なのは、人類は画期的なテクノロジーを開発すると決まって一つのことをしたがるということ。それは戦争。いまから103年前の7月28日に始まった第一次世界大戦では、飛行機、戦車、潜水艦、化学兵器など、当時人類が開発したテクノロジーが積極的に活用され大量殺戮が実現した。以後、科学は進歩し続けたが、人類は幸福になるどころか、ますます多くの不安や苦痛を抱え込むことになってしまった。AIは人類にどんな未来をもたらすのだろう。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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