『経済産業省は、過疎地の住民が「ガソリンスタンド難民」となるのを防ぐため、小型の貯蔵タンクを用いた「ミニGS」の設置を後押しする。ミニGSを導入する自治体に対し、早ければ今年度から設置費の一部を補助する。人口数百人程度の地域で普及が期待される。
ガソリンは1万㍑前後の地下タンクで貯蔵するのが一般的だ。ミニGSは、給油機と600㍑以下の小型タンク(高さ1.5㍍程度)を一体とし、地上に設置する。設置費は約一千万円で従来のGSの約3分の1に抑えられ、維持費も安くなる』─ 8月21日付「讀賣新聞」。
この計画が画期的と言えるのは、ガソリン貯蔵タンクを小型とはいえ地上に設置することで、埋設や配管などの工事費をゼロにできる点だろう。しかし、それに伴って種々の規制が掛けられれば、元も子もない。さらに重要なことは運営コストのこと。 当然セルフ方式となるだろうが、従来どおり、泡消火設備の設置やコントローラーによる制御等を義務付けると、これまた費用負担が増すことになる。限りなく無人化に近いかたちでシンプルな運営ができるかどうかが、成否の鍵となるだろう。そこのところは、消防庁を所管する総務省とよ~く話し合ってもらう必要がある。
もし、この「ミニGS」が、一定人口の郊外地にも導入されることになれば、GS業界にとっては歴史的な出来事になるかもしれない。何せ、日本のGS業界は相変わらずの“大艦巨砲主義”。第一次世界大戦後、海上における戦闘の主役は、航空機と潜水艦に変っていったが、日本海軍は時代遅れの、「大和」や「武蔵」の建造に巨額の国家予算を投じていた。それとよく似ている。
最低五百坪、中には千坪以上の敷地に計量機をずらりと並べたうえ、カーメンテの諸設備も抱える巨艦GSがいまも各地でオープンしているが、もはや量を追う時代は過ぎ、来るべきEV時代に備えるべく、コンパクトでシンプルなGSを展開すべきだと思う。もし、EVスタンドに改装したとき、無用の長物と課すのは巨大な地下タンクではないか。今回の「ミニGS」が、未来のGSのトレンドを生み出すきっかけになればおもしろいと思う。
でも、たった600㍑の地上タンクではすぐガス欠になってしまう。ならば、かねてから提案しているように、タンクローリーのホースが計量機と直結できるよう改造したらいいんじゃないか。各油層ごとに残量メーターの付いたタンクをGSが管理するという格好だ。ローリーの運転手がそのまま店番をするような勤務シフトを組むことはできないか。ほかにも、店舗のレイアウトを工夫したり、保守設備を強化すれば、簡便な給油所を運営できると思うのだが。
そんな面倒な仕掛けはいらない、ガソリンを配達して稼げばいいじゃないか、というわけで、米国では、ユーザーの自宅に定期的にガソリンを届け、同時にクルマの不具合をチェックするデリバリーサービスが始まっている。その一つで、サンフランシスコをエリアとする「YOSHI(ヨシ)」という会社は、専用アプリで注文を受け、指定された場所に行き、給油する。ファイアーストーン社と提携しており、無料で空気圧をチェックしてもらったり、タイヤ交換も注文できる。ワイパー交換やオイル交換などもOK。月額20㌦(約2、200円)で何度でも利用できるという。また、紹介制度を設け、同僚や家族を紹介したユーザーにはポイントが配布され、それを使って無料で給油をしたりできるようになっている。この新たなビジネスに注目した投資ファンドから、ヨシは今年に入り、2、100万㌦(約2億3千万円)の資金調達に成功している。
自動車への給油という19世紀からほとんど変らないサービスも、アイディアとテクノロジーによって新しいビジネスに成長させることができる。そこに立ちはだかるのは、既成概念によって塗り固められた、「規制」という恐ろしく厚い壁である。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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