三菱商事の洋上風力発電計画の撤退が大きな騒動になっています。
「政府が洋上風力発電の追加支援に乗り出した。三菱商事が建設コスト高などで落札後に撤退したため、ほかの事業者には海域の利用期間延長などで撤退ドミノを防ぐ。…政府が2020年から始めた洋上風力の公募で選んだ事業者が赤字になりにくい環境を整える」(日本経済新聞)
思えば2021年に商事が秋田県と千葉県の3区画を「落札総取り」した時は、商事だけに大きな仕掛けはさすがと思ったものです。他グループを圧倒する安値入札を実現しました。
この年には、ENEOSが事件で退任した会長の号令で再エネ会社を2000億円で買収して、あまりの高値に経済界から顰蹙を買うほどでした。脱炭素、SDGsの絶頂期だったのでしょう。
商事は洋上風力撤退で経営的にもかなりの痛手と思ったところ、撤退直後に株価は上がりました。“オマハの賢人”ウォーレン・バフェット氏率いる投資持ち株会社バークシャー・ハサウェイが、商事など総合商社株式を買い増ししていました。
バフェット氏は、コロナ真っ最中の2020年8月に5大商社に投資を行いました。商事株は1000円程でしたが今は3倍超です。コロナ明けとともに各商社の純利益が史上最高となり1兆円を超えてしまいました。
風力撤退の前に、商事はメジャーと進めてきたカナダLNG大型プロジェクトから日本向けに初出荷しています。引き取り権は年間210万t、米国、オマーンを含めると700万tで日本の取扱量の7%に相当します。また、米国の独立系ガス開発会社を約1兆円で買収する情報もブルームバーグや日経が報じています。
商事は「炭化水素回帰」に転じたのかなとうがった見方をしてしまいます。バーグ社もまた、脱炭素のトレンド転換が商社増資の一因となったのかもしれません。
話は脱線しますが、映画「ゴジラ-1.0」が米国で大ヒットした時に、「米国観客はハリウッド映画のSDGsやLGBT意識に辟易していた」と言われました。愚直に戦後の現実を描いたゴジラ映画が、図らずもハリウッドへのアンチテーゼになった、という評論がありました。
私の捻り過ぎの考えでしょうが、商事の風力撤退、バフェットの商社増資に映画の世界がオーバーラップします。
エネルギーはリアリズムの世界です。一国の政策を考える時には、資源インフラを踏まえたうえで原理原則を追求しなければ「安定供給」は実現しません。
原理原則とは、
① カロリー
② 価格
③ 安定供給(十分な余剰)
です。資源のない日本は日本なりのリアルなエネルギー政策が必要です。資源インフラが異なる他国の例を出して、「ノルウェーではEVが普及して脱炭素の優等生」という“ではの守”がいましたが、同国は電力の90%が水力発電です。日本で水力をやろうとすれば「脱ダム宣言」に足を引っ張られます。
脱炭素が重要であるとすれば、石油産業が現実的な「解」を出しています。ピーク時1999年度から2024年度にかけて国内石油需要は「45%」も縮小しています。つまり45%の脱炭素を実現したことになります。
そこに日本企業が開発に参画するLNGが増えれば、炭素分子が1つしかないクリーンエネルギーが広がります。化石燃料を使いながら脱炭素というのが、資源のない日本の「我が道を行く」実効性と合理性を持ったエネルギー政策ではないでしょうか(天下の暴論かな)。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局