6月12日付の油業報知新聞に、元エッソスタンダード石油社長の八城政基氏が登場してインタビューに答えていました。石油産業の歴史の中においてメジャーで最も出世した日本人です。
スタンダードバキューム時代に入社して、米独禁法による同社の解体とエッソの設立と成長戦略を担っています。日経新聞「私の履歴書」で書かれていましたが、40歳そこそこでエクソン会長補佐となって1年間、メジャーの取締役会に出席しています。御年91歳とご高齢です。しかし、年齢を知らずに記事を読むとバリバリの現役ミドルにしか思えません。冴えた内容で示唆に富んでいます。視点としては、元売、メジャーの立ち位置で述べています。
元売の海外戦略に関して、まず資源開発で長年の経験、先進技術、豊富な資金力で先行するメジャーに対抗するのは「政府の支援があっても不可能」と断言しています。
海外ダウンストリームもメジャーがアジア地域に十分な供給網を張っているので「大規模な進出は不可能だ」と述べています。「1980年代であれば東南アジアへの進出が考えられたが」という言葉には“日本の石油業界は遅えんだよ!”というニュアンスを勝手に感じます。
面白かったのは富士フィルムのビジネスモデルを出していることです。同社は世界的なフィルムメーカーですが、デジカメ、携帯電話登場で写真フィルム需要が激減します。2000年以降、同社はフィルム製造技術を応用した医療分野の開拓から医薬品までヘルスケアを軸とした総合化学会社に業態転換しました。
私が同社は凄いことやったなと思うのが、80年代末の「写ルンです」発売です。大ヒット商品となり今も根強い支持層を得ています。後から考えれば、これは生フィルムの自己否定であり富士系列写真店のフィルム売上げを減らして現像取次だけにしたことになります。さらに写ルンです販路をコンビニに広げました。系列を持ちながら「系列外」で大きく流通させました。
成長企業というのは既存ビジネスを換骨奪胎するか捨て去るものなのでしょう。反対に、写真フィルムのブランド力を捨てきれなった世界のコダックは2012年に倒産です(規模縮小して再上場しましたが)。
記事中で八城氏は、石油業界の問題は「企業として新たに発展する分野、事業がないことだ」と述べます。3月期決算で石油元売大手三社は赤字決算です。原油・石化価格の下落が直撃しました。
一方、三菱ケミカル、住友化学、旭化成、三井化学、信越化学など石化五社は、やはり石化市況の影響で減収・減益ながらも数百億円の最終利益を計上しています。信越化学など3000億円です。元売と石化の違いは富士フィルムが象徴する事業ポートフォリオの違いです。しかも石化会社には世界シェアを支配するオンリーワンの付加価値製品が存在します。
ある元売の株価とWTI原油の終値を折れ線グラフにしてみたら、きれいに相関しています。つまり業績は原油相場次第ということです。方や、石化はコロナ相場で落ちた後は数百円単位で相場を戻しています。
八城氏はエクソンの失敗例として80年代のワープロ企業買収を紹介します。買収相手は中小企業なのに、「大企業の事務処理やコントロールを要求してイノベーティブな社風を壊してしまった」と述べます。
私は20年前に早稲田大学教授から「石油業界ほどいろんなことやって何一つモノにできない業界はない」と喝破されたことがあります。悔しい思いをしましたが、これはエクソン失敗事例の「大企業」を「経産省」、「元売」、「SS経営者」に置き換えてみると分かるような気がします。
91歳の八城氏に勉強させていただきました。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局