COCと独立経営<782> 「標準価格制度」の宿痾⑩ – 関 匤

ガソリン補助金発動ということですが、そんなことよりもウクライナですね。1月27日現在、NATO軍とロシア軍が一触即発の睨み合いです。米軍も1万人近い兵力派遣を決めました。怖いのは攻撃命令が無くても、現地の兵が緊張感で一発撃ってしまうことです。意図せぬ総攻撃に陥りかねません。有史来初の米ロ直接対決になれば、それは第3次大戦です。

日本も対岸の火ではなく、ロシアのウクライナ領有が実行されたら、中国は台湾に同じことを仕掛ける可能性が大です。自衛隊も在日米軍もウクライナ情勢にビリビリ神経を尖らせていることでしょう。

標準価格の宿痾とは、小売業であるSS経営者の頭がガソリン脳炎になったことです。

ガソリン高価格体系の時代は今よりははるかに面白いことがたくさん起こりました。経営者の知恵も発揮されました。物凄い営業マンのSS店長がたくさんいました。系列の縛りのないCOC初期メンバーは、”こんなことできるの!”というほどSS経営を面白くしていました。

ただし、そこには「ガソリン利益が担保されている」という背景がありました。セルフサービスで給油が自動販売機化されていなかったので、効率やサービスで工夫の余地が大きい時代でした。油外でも知恵が働きましたが、利益の主体を占めるようなダイナミズムは見られませんでした。

COC事務局を引き受けた頃、東京は都の西北にある大学の教授に会いに行っては意見を伺っておりました。先生は専門が経営学で自由化前からSSに興味を持っていました。すでに退官されているので書いてもいいと思いますが、会うたびに言われた言葉があります。

「石油業界ほどあらゆることをやった業界はない。そしてこれほど何一つモノに出来なかった業界もない」

先生は1986年から始まった自由化でSS業態がどう変わっていくのかに非常に高い関心を持っていました。取扱商品自由化でコンビニやファーストフード併設が可能になった時には、米欧と同様に新たな収益構造の立ち上がりに期待もしていました。

1990年前後は、まさにあらゆるサービス業態がSSに出現していました。だから、先生は元売や販売業界の要請に応えて講演で新時代のSS像を説くこともありました。

しかし、結局はガソリン回帰になった顛末を嘆いたのが先のきつい言葉でした。業態革新ができなかった理由としてセルフ化前で、敷地規模も含めたハード要因が大きかったことは言えます。

もう一つ、先生が言っていたのは「全てをガソリン集客の言い訳にした」ことでした。併設コンビニを意地でも利益化するよりも、こういう変わった店舗があればアイキャッチになってガソリン客が増える、それでいいじゃないかという言い訳です。

そこに、「ガソリン利権」を維持したい業界団体と行政の政治力学が、小売業であるはずのSSの実像を歪めていきました。

先生の「何一つモノに出来なかった」のは、SSスタッフの責任ではありません。元売マーケティング部門とSS経営者の責任です。元売は石油製品を売る会社ですから、ちまちました小売りに本気で関わる必要はありません。米国でも90年代までは、セルフ業態として石油系コンビニが力を持っていましたが、コストコやセブンイレブンなど流通系が本気を出した途端、SS売却など優位性が後退しました。

元売はそれでいいのですが、SS経営者が「小売業」と「供給業」の棲み分けができなかったというのが私の持論です。大手で直営とサブ卸しを持つ供給業の論理が「業界世論」を形成したのが標準価格の時代であったと思います。この業界世論の力学が、もともと商業に無関心の行政を動かしました。

揮販法施行から自由化までの間にまん延したガソリン脳炎が、「何一つモノに出来なかった」業界にしたというのが、標準価格の宿痾における私の結論でもあります。

COC・中央石油販売事業協同組合事務局


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