「グリーンフレーション」という言葉があります。
グリーン=気候変動対策への対策(レアメタルや半導体など)に加えて、石油・ガス・石炭産業が投資に及び腰となり需給がタイト化して、様々な物価が上昇(インフレーション)しているという造語です。
さらに、ウクライナ戦争で原油価格・供給両面で変数の振り幅が拡大して、23日にはロシアがエネルギー取引をルーブル建てにすると発表して期近で6㌦近く高騰しました。
戦争によるインフレを「プーチンフレーション」と呼びます(私の造語)。
COCのZOOM研修に、エネルギーアナリストの岩瀬昇さんをお呼びしました。岩瀬さんは三井物産で一貫して石油中心に実務に携わった方です。開発から原油輸入や欧米でのトレーディングを経験されています。
岩瀬さんは、戦争の終わり方について英国BBCの「五つのシナリオ」を紹介しました。
一つめの短期決戦シナリオはすでに無し、二つめの長期化は「第二のアフガン化」に、第三の「欧州戦争」はもはや第三次世界大戦に発展してしまう。第四の「外交決着」はプーチンがどこで手を降ろすか次第、そして最後の「プーチン失脚」は望ましいけれど非常に難しい、と終戦の可能性が見えない。なぜなら、合理性ではなくプーチンが昨年7月に公表した「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」の個人的な強い思いを実現するための戦争だからです。
そして今回の侵略によって、戦後国際秩序の原理となってきた国連憲章や国際法が再構築を迫られること。しかも経済のグローバリゼーションとIT進化により、世界がフラット化しており、サプライチェーンが世界中で密接に連関している。経済制裁でロシアを抜きに考えると、エネルギーはもちろん半導体原料、穀物まで不足を来す可能性が高いとして、「コモディティのスーパーサイクル」に陥りかねないと述べました。
1900年から、世界は大きく4回のスーパーサイクル(長期インフレ)に見舞われています。構造的にインフレが続く状態です。1回目は第一次世界大戦後の産業化都市化、2回目は戦後の欧州と日本の復興・成長、3回目は2回の石油危機、4回目は中国の産業化都市化です。ウクライナ侵攻でスーパーサイクルの懸念が高いと見ています。
英国のオックスフォード研究所は、ロシアが石油全面禁輸の場合、今年の油価は110~130㌦と見ています。一方、戦争が無かった場合も2021年より高めの80~90㌦台の動きを見込んでいます。つまり、グリーンフレーションもあってもともと高め予想だったところに戦争という変数が入って一段高の高値予想なのです。
岩瀬さんは「第三次石油危機の想定」を述べました。1973年は“石油が無くなる”危機感でしたが、その後のIEA創設など緊急時に備える備蓄や融通の国際体制が整備されてきました。
石油の不足よりも価格の高騰がどこまでいくかがポイントと述べます。「米国には3つの石油会社がある」といいます。①エクソンモービルやシェブロンなど資金潤沢な大手国際石油企業、②上場国内企業、③非上場企業です。このうち国内企業は財務基盤が弱いため財務規律重視の配当優先の保守的な生産体制だそうです。大手石油企業は経営基盤が強いので経営計画通りの行動ですが、油価が上がったので生産を上方修正しつつある。そして非上場企業は規模が小さいけれど山師的な行動をとるので、昨年夏以降増産に動いている。
その前提から「一般に米国は22年に70万BD増産と言われるが100万BDを超えると見る」と述べました。
ただ、ロシアと生産協調してきた「OPEC+」が不確定要因になります。岩瀬さんの見立ては、戦争前の80~90㌦は容認限度だったが、このラインを超えると油価は高い景気は悪いというスタグフレーションに陥りかねない。これは過去の石油危機の特徴であり、第三次石油危機も想定に置く必要がある、今後のニュースに感度を高めてほしいと述べられました。第三次石油危機とスーパーサイクルという恐ろしい可能性が示されました。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局