COCは「ビジネス研究会」を年に2、3回、開催しています。
11月に「自動車社会と流通の変動」をテーマに行います。モーダルシフトの中での「サービス・ステーション」をいかに再定義するかという考え方で試行錯誤しています。
その自動車流通ですが、今年はなんといってもビッグモーター一色となりました。ちょうど総額表示の義務化というタイミングもあって、ビッグに限らず大手チェーン店の売り方の問題点が次々に露呈しました。ネクステージも評判が悪くて、同名の広域SS企業が社名を変更しています。多数の苦情が間違って寄せられたと聞きました。
ビッグ問題で一躍脚光を浴びた方が、香川県で自動車販売店を経営する中野優作氏です。YouTubeで人気がありましたが、元ビッグモーター幹部ということもあって、事件発覚とともにキー局でコメントをしていました。さすがプロ営業マンだけあって、非常に分かりやすく、かつ業界に忖度せずに切れのいいコメントをしています。
中野氏が、元ビッグ経営幹部としての自戒を込めて、自動車流通のあり方に巨大な一石を投じた著書が8月に発刊されています。「クラクションを鳴らせ!-変わらない中古車業界への提言」(幻冬舎)です。クラクションとは「警告」です。
“時の人”なのでビッグの内部告発本的なイメージで見てしまいますが、もちろん問題点を指摘しているものの、この本は自動車販売の素晴らしいマニュアル的な価値を持っています。
中野氏は、ビッグやネクステージ、ディーラーや自販業者など専門業者と同じく、SSを自販業者と認識しています。SS車販は中野氏ら既存業界にとって新たなライバルと認識されているのです。元売までリースで車販業界に参入しています。
中野氏がビッグ社に入社して最初に教えられたことは、“買うまで客を帰らせるな”だったそうです。そして“オプションを購入しない客には売るな”という売り手都合の販売方法でした。
中野氏もビッグ流に染まって反省すべき売り方をしていたそうですが、その反省を踏まえてこう述べています。
「高いノルマと強引なマネジメント、売り手都合の商談を押し付けて、本来お客様が望むようなサービスを提供できているのだろうか? そもそもお客様が話す気になるような、身なりや立ち居振る舞いを、君はできているのか?」
私はSS業界が伝統的にやってきた油外マネジメントのことを言っているのかと、一瞬錯覚しました。個人別売り上げグラフの目標管理、売り手都合のキャンペーン、売り物を探すための安全点検…。だから以前の拙稿で「ビッグ事件はSSにとって対岸の火事ではない」と書きました。
さて、同書で商談の段階を整理している部分は極めてノウハウ的です。実戦で役に立ちます。中野氏は実にマーケティング理論をよく勉強しています。「メラビアンの法則」を引用しています。UCLAの心理学者の実験によるものです。
商談で一番大切な初対面において、この法則を非常に重視しています。法則で初対面の第一印象は3つの要素から判断されるそうです。
①言語情報 7%
②聴覚情報 38%
③視覚情報 55%
数字は重要度です。言語情報とは「セールストーク」です。聴覚情報とはスタッフの語り口とか声音の調子、視覚情報とはスタッフの見た目です。
SSのキャンペーンでいきなりタイヤやバッテリーの効用とか価格情報を伝えても、顧客の判断材料の7%に過ぎないということです。むしろ身だしなみや笑顔、顧客に共感しながら心地の良い話し方が圧倒的に第一印象を良くするということです。
今までの「油外発想」にクラクションを鳴らして、SSが自動車流通に新たな波を起こせるか。その時、この本は非常に重要な意味を持ちます。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局