コロナ禍で、全世界でパニック状態に火が付いたのが2020年2月半ばでした。経済活動は停止状態となって、3月にはニューヨーク取引所でWPIが「マイナス相場」を付けるという、史上初の凄まじい事態が想起しました。
この年の7月、誰もが先行き不安で投資をためらう市場にあって、「オハマの賢人」と称される投資の神様・ウォレン・バフェット氏が日本の総合商社への投資を表明しました。日本株に無関心と思われていただけに、コロナ禍における経済の大トピックスとなりました。
バフェット氏は「ファンダメンタル投資」として、企業の財務分析を時系列で綿密に行い、その企業の事業の成長性・永続性を判断して長期投資を行うことで知られています。総合商社は多様な事業ポートフォリオを包含する世界的にも稀有な業態と言われます。バフェット氏はそこに投資適格性を見いだしたのでしょう。
これを機に、総合商社の利益は飛躍的に拡大を開始しました。バフェット氏が投資した三菱商事、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事5社の純利益合計は、2019年度に1兆5000億円でした。
20年度こそコロナ直撃で1兆円に下落しますが、21年度は3兆5000億円に飛躍します。
三菱商事と三井物産は純利益で1兆円を突破しています。22年度は5商社合計で3兆円強に減益したものの、バフェット氏投資以前は1兆~1.5兆円で推移していたので利益のベースが倍加したことになります。
投資資本が大幅増強されたことだけでなく、バフェット氏という「緊張材料」が組織行動を活性化したと考えられます。
この当時、私は興味を持って2020年6月に出された伊藤忠商事の「統合レポート2020」にアクセスしました。まず1頁を使って琵琶湖の白鬚神社鳥居を背景画像として「創業1858年」と創業者伊藤忠兵衛の言葉を記しています。次の頁には創業以来、世界経済恐慌、戦争、大災害を年代列挙して、「幾多の荒波も商人として乗り越えてきた」としています。そして3頁目には企業理念として、近江商人の「三方良し」を大書しています。
その後に現状の経営コンセプトをまとめたうえで、岡藤正弘会長が投資家に向けてメッセージを述べています。印象深かったのは、コロナ禍で入社式をオンライン化する企業が圧倒的多数にあって、あえて4月1日に新入社員を本社に迎えていること。もう1つは、これも大多数が自宅勤務を行っていましたが、体調不安や家族に支障がある人を除いて、原則全社員出社体制をとっていたことです。
これに批判を恐れず、「伊藤忠は商人だから」という信念だ、と胸を張っています。
別に伊藤忠カッコいいと言うつもりはありません。統合レポートが出された時期です。発行の1カ月後にバフェット氏の投資が公表されています。明らかに統合レポートは海外投資家を意識した編集になっています。コロナ禍でも社員は自宅で巣ごもりせずに機能していますという表明です。向こう傷を厭わない姿勢を示すことで、リスクを恐れない米国投資家にアピールしたものと思われます。
要は資本関係が変われば、総合商社の場合、純利益倍増と大化けしたわけです。
ようやく石油村の話になりますが、元売三強のうち、コスモHDGSは岩谷産業の持ち分適用会社となりました。そして出光興産は富士石油株主との時間外取引で持ち株を買い取り、同社を持ち分適用会社としました。コスモ、富士いずれも、旧村上ファンド系の大量取得をきっかけに資本関係が変わりました。
コスモと岩谷はエネルギー企業同士ながら、業態を異にします。事業ポートフォリオが多様化して、相互連携が機能するのか。また、出光は富士石油という非常に高い分解能力を持つ精製会社をどのように戦略活用していくのか興味があります。
いずれにしても、今までイメージしていた元売の姿が変貌を始めています。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局