油業報知新聞の人気コラム「セルフ雑記帳」が連載1000回の節目を迎えたのですが、著者の和田信治さんが自らのHPで無期休載を告知しています。残念ですね。
残念というのは、SS経営者でありセルフ解禁時に決済システムを開発するなど実務に習熟した方であること。自由化前の元売特約店時代にはプリカを駆使して燃料油量販で注目を集める存在であったこと。厳しい経営環境を経験していること。
私と違って経営の酸いも甘いも味わった方であるだけに、氏のコラムは地に足の着いたものでありました。どんな業界でも実務者による業界検証という視点は不可欠です。それは往々にして批判的な論旨となりますが、これは業界成長に必要なことです。そもそも官庁や企業や業界団体が「無謬」(むびゅう)でありえませんから。
それゆえに和田さんの休載が残念なのです。
20年近く前、石油連盟会長さんが「これからは量から質」と発言して、大手特約店さんや石商幹部の方々は絶賛しました。和田さんはこれを「量から質(しち=担保)」と言い換えました。和田さんの取引の本質を捉えた諧謔(かいぎゃく)に脱帽しました。こういう精神が業界メディアには不可欠なのですが。
私は1990年代末から21世紀初頭にかけて、たまに流通系月刊誌でコンビニやホームセンターの取材原稿の仕事を貰っていました。ちょうどショッピングセンターが勢いづいていた時代で、外資の大手も参入していました。
私にはとうてい流通店舗を検証する実力はなかったのですが、筆者たちの記事を読んで「石油と全く違うな」と感じ入りました。当時健在であった渥美俊一氏は、戦後、日本の流通業発展に理論面で大きな貢献をされた方でした。ペガサスクラブという勉強会を主宰して、そこからイオン、セブン&アイ、ダイエーなどの創業者たちにチェーンストア理論を啓蒙していました。ある時代までSS経営者が何人か参加していました。
その渥美さんは、日本に鳴り物入りで参入したフランスの流通大手カルフールの一号店を見学して、完膚なきまでに批判しました。日本市場における生鮮のクオリティを理解していない、顧客ニーズよりも自分が売りたい品ぞろえにしている…といった内容だったと思います。
カルフールに対する批判は、日本の流通経営者にも影響を与えたはずです。渥美さんのみならず流通月刊誌の編集や著者と交わることで店舗と商品にこだわるという彼らの謦咳(けいがい)に触れることができました。(私自身はライターとして無能でしたが)
アクティブな産業では批判的な言辞が溢れています。同時にそれらが検証材料となって、企業成長に寄与していることは間違いありません。逆に、役所や元売の言うことを上から下に伝えるような業界には、新しい挑戦者は生まれません。成長の芽を摘まれますから。ガソリン安売りへの批判だけはかまびすしいのですが。
和田さんのコラムバックナンバーにCOCのことが書かれていました。2005年ですね。
私が研修会の講師役に声掛けしていました。無償でやってもらったようでお言葉に甘えてしまい反省しております。近く、有償で講師の声掛けをいたします(笑)。
COCはもともと中京地区のSS経営者主体に設立されており、愛知県出身の和田さんは地元の猛者を意識して縮こまっていました。しかし「セルフの伝道師」として実務に習熟し軽妙洒脱なお話が面白いので会が盛り上がったことを記憶しております。
2005年頃は、元売が直営セルフの本格出店に入っていましたが、それでも独立系セルフに夢を持って語る方が少なくありませんでした。和田さんはHPで「まだまだ健康だし、好奇心もある」と書かれているので、これからはセルフの利益業態づくりに知恵をお借りしたいと考えています。
COC・中央石油販売事業協同組合事務局