vol.731『ゴーン・ショック』

「墜ちた偶像」─この一週間余り、カルロス・ゴーン氏の報酬をめぐる不正疑惑報道を見ていて、人間の愚かさ、浅ましさというものを改めて思い知らされた気がする。捜査はまだ進行中であり、ゴーン氏が有罪なのかどうかもわからない。しかし、庶民感覚とかけ離れた巨額の報酬に飽き足らず、不正な仕方で蓄財に励んでいたのが事実だとすれば、これは株主や従業員に対する裏切り行為ということになる。

“毎年10億円もの給料もらっていたのに、さらにそれと同額を裏で受け取っていたなんて。そんなに稼いでどうするつもりだったんだろう”と首を傾げる私もあなたも庶民である証。報道によれば、ゴーン氏はブラジルの大統領になるという野望があったとかなかったとか。2016年に再婚しているが、結婚式はベルサイユ宮殿を貸切って挙行したそうで、費用は推定75億円とのこと。そりゃあ、幾らお金があっても足りませんわな。

今回の事件は、ワンマン経営者が会社のお金を使い込んだというだけの話にとどまらない。日産の親会社ルノーの支配力が強まるのを警戒した日産経営陣が、両社のアライアンスの中心人物であるゴーン氏を排除するために周到に仕組んだ罠だったという説もある。どうやらフランスでは“ゴーンはハメられた”という声が少なくないらしい。そのためか、日産・三菱はゴーン氏を会長職から解任したが、ルノー本社はそうせず、とりあえず会長代行人事を決め、事の推移を見守っている。

19日にゴーン逮捕について日産・西川社長が記者会見していたが、「あなた社長なのになんにも知らなかったんですか?」と思った人は多いだろう。何もかも“ゴーンが悪い”で片付く話ではないように思う。日産が昨年9月に、完成車の最終検査を、無資格の検査員が実施していたとして、約6万台の在庫車の販売を停止するという失態を演じたのは記憶に新しい。日産のガバナンスは大丈夫なのかという不信がますます募ることだろう。

日産サイドから、ルノーより1.5倍の売上があるのに、経営をコントロールされるのは不公平だとの声があがっていることにも驚かされた。19年前、2兆円もの有利子負債を抱えて潰れかかっていた日産が今日在るのは誰のおかげ?経営支援を仰いだその時から、日産は事実上ルノーの子会社になったと世界中の人たちは見ている。幾らゴーンが嫌いでも、そこは切り離して考えなくてはいけないだろう。毎年のように取り沙汰されてきた高額年俸についても、10億円が高いか安いかは物差しによって違う。大谷翔平のチームメイトで、MLBを代表するスラッガー、マイク・トラウトの年俸は約38億円。高いか安いか、これも物差しの問題だ。

それにしても、日産や三菱の従業員は連日の報道をやりきれない思いで見ていることだろう。むかし、取引先の社長さんがこんなことを言っていた。「仮に従業員が100人いたとすると、こっちは二つの目ん玉で100人を見ているが、向こうは200個の目ん玉で一人を見てるんだ」。確かに子供は親を、生徒は先生を、従業員は経営者をよ~く観察している。特に弱い所や悪い所を。やましいところがあれば、隠し通すことはほぼ不可能だ。

「うちの社長、リゾートマンション買ったんだって」「そんな金あったら俺らの給料上げてほしいよな~」「専務(息子とか奥さん)はこのあいだレクサスに買い換えたんだって」「油外上げろ、経費抑えろって言うけどさぁ、やってられないよな~」─。確かに、従業員のモチベーションは下がる。まあ、経営者には経営者の言い分があると思うが、とにかく、良い時も悪い時も、貪欲の罠に陥ることのないよう自戒しなければならないというのが、今回の“ゴーン・ショック”から学べる教訓だ。ちなみに、貧乏社長を自認する私の愛車は日産「ノート」です。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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