今月7日に三重県津市でガソリンスタンドの灯油タンクに、タンクローリーが誤ってガソリンを混入させ、大騒ぎとなった。9日になってスタンド従業員が、客から灯油の色がピンクっぽいとの指摘を受け発覚したという。3日間に86人の客に2387㍑を販売、その後地元マスコミなどを通じて返品を呼びかけたところ、14日までに全量回収されたと津市が発表した。おそらく、幾らかはストーブなどで使用されたのだろうが、幸い火災事故などは生じていない。GSも運送会社も胸を撫で下ろしたことだろう。
タンクローリー内での誤配管による事故だったわけだが、ローリー運転手がミスに気付いた時点で報告すれば、灯油の販売中止で事なきを得たのだが、叱られるのが怖かったのか、これぐらいの混油なら大したことはないだろうと思ったのか、誤注油を報告しなかったことが被害を拡散させてしまった。テレビニュースで、運送会社の役員さんが沈痛な表情で謝罪していた。GS側も、荷降ろしの立会いをちゃんとしていたら未然に防げたかもしれない。もっとも、何年か前に、従業員と運転手が世間話をしていて、二人とも誤注油にまったく気付かず、同様の事件に発展したケースもあった。やはり、荷降ろし時には双方、緊張感を持って臨まねばならない。
それにしても、この類の事件は、年中行事かと言いたくなるほどこの時期に日本のどこかで発生する。「人間のやることだから、コンタミ防止装置が付いていても誤注油は起きますよ。問題は、間違えちゃった時にすぐに“ごめんなさい!”って言えるかどうかですよね。それが最低限のモラルですね」とは、うちに時々来るローリー運転手さん。そんなことは当たり前のことじゃないかと言いたいが、実際、これまで懲戒や懲罰を免れたいがために、ミスを隠したり、ミスを取り返そうとして、大事故や大損害をもたらしたという事例は枚挙に暇がない。やはり人間は弱いいきものなのだ。
とにかく、ミスしないことに越したことはないのであって、そのための有効策として安全管理の専門家が口を揃えて唱えるのは、指差呼称・確認の徹底なのだそうだ。確認対象を「○□ヨシ!」と指を差しながら声に出して確認する─ハイテクの世になっても、このオーソドックスな動作こそが、安全の継続に最も効果的なのだという。例えば、1994年に鉄道総合技術研究所のボタンの操作をする試験では、指差呼称をした場合の誤りの確率は0.38%と、しなかった場合と比べて、6.2倍以上ミスが減っている。また、 広島大学の研究結果によると、指差呼称をすると前頭葉の血流が増加して注意力・集中力が上がっていることが確認できたそうだ。このように、科学的にも指差し呼称の有効性が証明されている。
日常生活でも、お出かけ前に「ストーブ、ヨシ」「コンロ、ヨシ」「湯沸し、ヨシ」…なんて具合に、火のもとの確認を指差呼称するのは効果的だ。確認を怠って、しばらくしてから“あれ、ちゃんとスイッチ切ったかな…”と不安な気持ちで過ごす時間の気持ち悪さったらない。危険物を扱う私達の職場においては、これはもう必須作業。直接給油に関わる機器や動作に限らず、売上金の集計や、精算機の施錠においても、「ヨシ!」と声を出して確認すべし。
さらに、一部のGS経営者の方には、価格を変更する時も、前頭葉、すなわち思考や理性を十分に働かせ、仕入価格や必要経費も十分に考慮し、本当にこの価格でいいのか確認したうえで行なってほしい。間違っても“最近売れないから”などと焦りの気持ちで価格を下げたりしないように。価格改定も指差確認せよ、と言いたい。もっと言えば、年を追う毎に販売量が減少してゆくこの業界で、「いまの売り方で未来はだいじょうぶ?」と安全確認をしたうえで、「ヨシ!」と言える経営ができればいいなと思う。みなさん、どうか平安な年末年始をお送りください。今年はこれでおしまい。来年もよろしくお願いします…。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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