vol.743『人事異動』

人事異動の季節である。業界紙にも、石油元売の人事情報がびっしりと掲載されている。見ず知らずの大勢の人とやたらと長い名称の部署が記されているそのページを俯瞰してみると、私には、その活字のかたまりがアリの大群に見える。企業という“巣”の中でうごめく、働きアリの群れを見ているような感覚。しかし、そこに記されているのは紛れもなく人間の名だ。その一人一人に生活があり、家庭があり、人生があるわけで、新たな仕事を割り当てられることにより、それぞれに悲喜交々のドラマがあろうことは想像に難くない。「ついに念願の部署に行ける!」と狂喜する人、「なぜ俺があんな部署に…」と落胆する人、「引っ越したくないよ~」と涙を流す人、などなど。

自分は移動がなかったとしても、上司や部下が移動し、新たな人間関係を築かねばならない人もいるだろう。実際、新しい仕事そのものより、そちらの方が気がかりという人は少なくないだろう。米調査会社ギャラップが米国の従業員100万人以上を対象に実施したアンケート調査によると、仕事を辞めた人の75%が、その理由として上司や直属の監督者を挙げた。上司とうまくやっていくことは、会社で生き残っていくため、そして成功するためにはとても重要なのだ。

経済誌「フォーブス」によると、上司とよい関係を築くための三つの秘訣を挙げている。それによると、まず、上司のコミュニケーションスタイルを把握し、適応すること。上司は、メールでの報告を好むか、それとも書面か、あるいは直接会って話すのを好むか?それを把握することで事がスムーズに運ぶという。次に、報告する際は問題ではなく、解決策に焦点を置くこと。これこれの問題がある、どこそこにも問題がある、と報告するだけでなく、こうしたみたらどうでしょうか、と解決策も提案するようにするなら、上司はそのスキルを評価するかもしれない。そして、3番目に、信頼でき、一貫した仕事をすること。当然と言えば当然のことだが、期日どおりに日々の仕事を確実にこなしてゆくなら、上司は、より大きな責任をゆだねようとするだろう。

とはいえ、上司にもいろいろな人がいる。無論、非の打ち所のない人なんていない。むしろ、欠点の方が目に付くのが人間というもの。しかも、書店には「部下に好かれる上司と嫌われる上司」みたいなビジネス書が氾濫していて、部下がやる気を出さないのは上司のせい、部下が成長しないのも上司のせい…と、上司が目の敵にされるご時勢だが、何でもかんでも上司のせいにしていつまでも不遇をかこっていても惨めなだけだ。少しでも関係を改善できるよう努めるか、ひたすら耐えるか、さもなくば職場を去るか、だろう。事実、上司からのいやがらせや言葉の、あるいは実際の暴力を受けて、心身を病んだり、自死してしまう人までいると聞くと、どんな職場で、どんな人間と一緒になるかは、本当にその人の人生を左右させる事なのだと思い知らされる。願わくは、恩師や親友と呼べるような人との出会いがあればと思う。

そんなこんなで、改めて巨大元売の“人事異動絵巻”を眺めると、入社当時は一緒の職場になるとは思わなかった人々が、上司や部下、同僚となり、その人間関係が、個々の人々の人生を思いもよらぬ方向へ導いてゆくかもしれないし、元売と特約店・代理店との関係も、少なからず影響を被るだろうと想像する。昨今は、販売支店の幹部と、特約店主との関係は、以前と比べてずいぶん希薄になったと聞くが、それでも、支店長が交代するたびに、良くも悪くも、元売と特約店主の間には緊張感が生じる。いまはひとつの会社になったとはいえ、入社当時の会社が異なるゆえ、「あの人はどこそこ出身」と分別し、スタンスを図ろうとする店主がいるかと思えば、過去のしがらみがなく、ビジネスライクで付き合えるので良いと歓迎する人もいることだろう。

いつの時代も、どんな組織も、大人も子どもも、人事というのは非常に大きな関心事である。果たしてこの先、どんな人と出会い、どんな経験をすることになるだろうか。期待もあるが、不安も大きい。

 セルフスタンドコーディネーター 和田信治
(このコラムに関するご意見・ご感想は、FAX 0561-75-5666、またはEメール wadatradingco@mui.biglobe.ne.jp まで)


〒104-0033
東京都中央区新川2-6-8
TEL: 03(3551)9201
FAX: 03(3551)9206