米中貿易戦争の一進一退が毎日のように報じられる一方で、現実の戦争に対する脅威が広がりつつある。イランの核合意を不十分とし、合意から離脱した米国はイラン産原油の全面禁輸措置に踏み切ったうえに、イラン政府による軍事的な脅威の兆しがあるとして、中東へ空母打撃群の派遣を承認、緊張が高まっている。
イランのロウハニ政権にとって、オバマ政権時代に米国と締結した核合意は最大の実績の一つだった。これにより制裁緩和を勝ち取り、経済成長を約束して国民の支持をつなぎ留めていたのだが、イラン敵視のトランプ政権誕生で事態は暗転。制裁の再発動で経済困窮が深まり、国内では再び反米の保守強硬派が勢いを増しているという。
先週、アラブ首長国連邦の沖合では先週、サウジアラビアなどの石油タンカー4隻が攻撃を受けた。また、サウジのパイプライン施設も無人機攻撃を受け、サウジはこれらはイラクが指揮したものだと批判。19日にはイラクの米国大使館がロケット砲による攻撃を受けた。イランはいずれの事件への関与も否定しているが、トランプ大統領は、「もしイランが戦いたいなら、イランは正式に終わることになる。二度と米国を脅迫するな!」と例によってツィッターで吼えている。
そんな中、エクソンモービルは、イラク国内の油田「西クルナ1」から60人前後の外国人スタッフを全員退避させ、ドバイに移送した。イラク国営石油会社は「退避は予防的措置であり、一時的なもので、状況は安定している」として不安を打ち消そうとしているが、すでに“開戦前夜”の状況だと報じるメディアもある。一方、すべてはイスラム諸国を疑心暗鬼に陥らせてかく乱しようとしているイスラエルの謀略だという説もあったりして、フェイクニュースの時代ならではの様相を呈している。
一触即発の中東情勢、何がきっかけで戦争になるかわからない。例えば、1969年に勃発したホンジュラスとエルサルバドルとの戦争は、ワールドカップ予選での両国サポーターの衝突がきっかけになったとされている。国境線問題や貿易摩擦などで溜まっていた両国の“ガソリン”に火がついてしまったわけで、5日間の戦闘で5千人もの死者が出た。まさかそんなことはないだろう…と思っていても、一発の銃弾、一回の事故、一度のツィートが引き金になって戦争がはじまる危険性は常にある。日本だって、先の国会議員の発言がきっかけで「第二次日露戦争」が勃発するかもしれない…。
もし、米国とイランが戦争となれば、すぐさまホルムズ海峡のタンカー航行が不能となり、世界の石油の3分の1が供給ストップ、そして日本経済は…という悪夢を多くの人が想起するだろう。原油価格は当然のごとく上がり始めた。しかし、愛知県日進市では週明けからガソリン価格が130円台半ばまで下がるという有様。この地域の私以外のGS経営者は、よほど資金に余裕があるのか、ただニュースを見ていないだけなのか…。
“戦争の原因を知りたければ、「だれが得をしたか」考えてみればその答えが分かる”とよく言われるけれど、最終的にはだれも得なんかしない。得したつもりでいる連中も、自分たちが蒔いた憎悪の種を、その子孫たちが刈り取ることになる。人類が貪欲さと利己心を捨てない限り、戦争は絶対に無くならない。つまり、人間の力で戦争を無くすことは不可能なのだ。中国の思想家・魯迅(1881-1936)の次の言葉は言い得て妙である。『平和というものは、人間の世界には存在しない。しいて平和と呼ばれているのは、戦争の終わった直後、またはまだ戦争の始まらない時をいうにすぎない』─。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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