油業報知新聞社がまとめたところによると、石油元売5社の2019年12月末の系列店舗数は、22、731ヶ所だった。そのうちセルフスタンドは8、226ヶ所で、占有率は36.2㌫。1998年から始まったセルフ方式だが、ものの10年もしないうちに過半数を占めるだろうと思っていたのだが、いまだに3割台にとどまっている。ただし、元売が所有している店舗に限ると、総数5、798ヶ所に対して4、195ヶ所で72.4㌫。ほとんどセルフ。一方、特約・販売店が所有する16、933ヶ所のセルフ比率は23.8㌫にとどまっている。
そういえば、このあいだ、長距離運転の途中、サービスエリアのGSに立ち寄った際、給油レーンに停車して給油しようと車を降りたら、スタッフが走ってきて「当店はフルサービスです!」。会員カードに申し込むと、今回の給油から5円引きだというから、申込用紙に氏名のみ記入して給油してもらった。「窓をお拭きしてもよろしいですか?」「いえ、だいじょうぶです」「エンジンの点検はよろしいですか?」「ええ、結構です」─。
こんなやり取りをするのは十数年ぶりのことだな~などと思いながら、二千円分給油してもらった。前述の統計には独立系GSのデータは含まれていないが、約3千ヶ所のうちのセルフは千ヶ所強とのことだから、こちらもスタッフ給油の店舗のほうが圧倒的に多い。愛知県の某PBスタンドは、常時地域最安値の看板を出しているが、スタッフ給油。とはいっても、腰が90度近く曲がったおじいちゃんと、その妻の二人で営業している。日曜定休で、午後7時頃には閉店してしまう。恐らく、セルフ化する気などさらさらないだろう。
独立系GSというと、何となく進取の気性に富んだ、その地域で良くも悪くも際立った存在というイメージがあるが、むしろ、セルフだの、キャッシュレスだのといったトレンドに背を向け、十年一日の如く営業スタイルを貫いている店も少なくない。あれこれ面倒なシステムは必要なし。スタッフ給油といっても、窓拭きなんてしないし、会員カードもなし。24時間営業なんて馬鹿げたことは考えもしない─。
本来、独立系スタンドとはそういうものなのかもしれない。元売に売り値から売り方まであれこれ指図されることに嫌気が差し、自由をもとめて“独立”したわけで、“独立系はこうあるべき”なんて掟はない。あるがまま、なすがまま、きょう一日が平安に過ぎればそれで良し…。現在、日本のGSの約7割が、ワンディーラー、つまり1店舗のみの事業者で占められているが、このご時勢にあってしぶとく生き残るのは、元売が歯牙にもかけない彼らかもしれない。
西アフリカの小国ベナンで語られている次の小話はとても考えさせられる。丸木舟に乗って家に帰った漁師が、外国から来た専門家に会う。専門家は漁師に、なぜこんなに早く帰って来たのかと尋ねると、漁師は、もっと長く漁をしていてもよかったが、家族を養うのに十分な魚を捕った、と答えた。「では、空いている時間は何をするのですか」と専門家が尋ねると、漁師はこう答えた。「そうだな。少し釣りをしたり、子どもたちと遊んだり、暑い時はみんなで昼寝をしたりする。晩には一緒に夕食を取って、その後、仲間と集まって音楽を楽しむ。そんな感じかな」─。
専門家は、こう口をはさんだ。「わたしは大学の学位を持っていて、こうした事柄を研究してきました。あなたを助けたいのです。もっと長く漁に出たほうがいいですよ。そうすれば収入が増えて、そのうちこの丸木舟より大きなボートを買えます。大きなボートがあれば、さらに収入が増え、やがてトロール船の船団を持てるようになります」。
「それから?」と漁師は尋ねた。「そうなれば、仲買人を通さずに工場と直接交渉できますし、自分で魚の加工場を始めることさえできます。株式市場に上場することも夢じゃありません。お金持ちになれますよ」。「それにはどれくらい時間がかかるんだい?」 「おそらく、15年から20年でしょう」 「それから?」 「人生が面白くなるのはそれからです」。そして専門家はこう言った。「そうなれば時間のゆとりができて、少し釣りをしたり、子どもたちと遊んだりできますし、暑い時には昼寝をし、家族と一緒に夕食を取り、仲間と集まって音楽も楽しめますよ」─。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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