vol.643『タクシーに乗れば…』

『東京都23区と武蔵野市,三鷹市を営業区域とするタクシーの初乗り運賃が,30日,従来の「2キロ㍍730円」から,「1,052㍍410円」に変更された。国土交通省によると,乗車距離が約2キロ㍍未満はこれまでより値下げに,約2キロ㍍から約6.5キロ㍍は値下げと値上げが混在し,約6.5キロ㍍以上は値上げとなる』─1月30日付「讀賣新聞」。

2015年度の全国のタクシーによる輸送人数は10年前に比べ約3割,総収入は約2割減っているそうだ。そのため, 2キロ未満の近距離利用での負担を下げることで,「近場の買い物帰り」,「同僚との一つ先の駅への移動」など,さまざまな場面で使いやすくする,いわゆる“ちょい乗り”需要の増加を図ろうということらしい。また,外国人に根強い「日本のタクシー料金は高い」との負のイメージの払拭を図るねらいもあるようだ。それにしても「1,052㍍」って,どういう理屈で設定された距離なんだろう…。

今後,この動きが全国的な広がりを見せるかどうかはまだ分からない。大都市のタクシー会社は様子見のようだ。一方,大都市は流しのタクシーが多いため,ある程度新規需要が見込めるかもしれないが,地方都市では長距離が値上げになることで,むしろ逆効果になるのではとの見方もある。

私はタクシーにほとんど乗らないけれど,愛知県では,現在1,246㍍までの初乗り運賃が中型で500円,小型で480円。以後246㍍ごと,ないしは1分30秒(時速10キロ以下)ごとに80円が加算される料金体系になっている。名古屋駅から自宅まで乗ると,3,280~4,020円かかる。地下鉄と市バスを乗り継げば,タクシーに乗るより20分ほど時間が掛かるものの,480円で帰宅できるので,よほどのことがない限りタクシーには乗らない。一般庶民はまだまだ生活防衛に余念がなく,タクシーに乗る余裕はないのである。

しかし,今回東京で始まった“ちょい乗り”需要の開拓は,別の観点から良い試みだと思う。それは高齢者ドライバー対策だ。先日,私の店に70~80歳代の男性が来店し,給油の仕方を教えてほしいと,スタッフのYを呼び出した。Yが券売室まで案内し,プリカを購入してもらったあと,車に戻って給油操作を教えようとしたところ,老人はYの顔をじっと見つめて一言。「あなたはだれですか?」。これはヤバイな,と感じつつも自分はこの店の従業員であることを説明したうえで,給油口を開けてくださいとYが促すと,老人はまたしてもその場に立ち尽くし,「どうやって給油口を開けたらいいかわからん」─。

助手席に居た奥さんと思しき老婦人がたまりかねて出てきて,「すみません。(認知症の)リハビリと思って来たんですけれど,やっぱり無理でしょうか…」 「いやぁ…お気持ちは分かりますけれど,リハビリで運転するのはちょっと危ないんじゃないでしょうか」とY。何とか給油し終えるまで援助して,真新しいトヨタ「アクア」を送り出したが,もしあの老人がこのあと下校中の小学生の列に突っ込んだりしたらどうしよう,なぜ給油に来た時異変を察知したのに,警察に知らせなかったんだと責めを負うのではないか,と怖くなったという。

日進市のような地方都市では,自動車がなければ生活できない。しかし,昨今大きな社会問題となっている高齢者ドライバーによる事故を防ぐためには,せめて認知症を患っている高齢者だけでも,車を運転しなくても移動できるような措置を講じる必要があるのではないか。その一助として,初乗り料金が低額のうえ,高齢者特典のようなものが付加されたタクシーを気軽に利用できるようになれば,交通事故予防に加え,タクシー需要の掘り起こしも期待でき,一石二鳥となるかもしれない。高齢者がタクシーを頻繁に使うようになったらガソリンがますます売れなくなるなどと瑣末なことを言っている場合ではない。とりわけ,12年連続で交通死亡者数ワースト1の汚名にまみれている愛知県において,前向きに取り組んでみてはどうだろうか。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治

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