『菅義偉首相は18日午前、各府省の事務次官らが政策課題を協議する「次官連絡会議」に出席し、「事務方の責任者である皆さんが率先して行政の縦割りを打破し、既得権、あしき前例主義を打ち払って大胆な規制改革を進めてほしい」と訓示した』─9月18日付「時事通信」。
新首相の意を受け、河野行革担当大臣は早速“縦割り110番”を自身のHPに設け、「無駄な規制、仕事を妨げている規制、役所の縦割りで困っていること等々、規制に関する情報をお送りください」と告知。また、 行政サービスのデジタル化を一元的に行うとして「デジタル庁」を新設するために特命担当大臣が任命され、準備作業が始まっている。
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コロナ感染拡大に伴う給付金支払いで、手続きの煩雑さから行政の対応が批判を浴びたうえ、デジタル対応の遅れも浮き彫りとなった。政権中枢でこれらを目の当たりにしてきた菅首相としては、ポスト・コロナを見据えて、一気に構造改革を進めようというのだろうが、任期は約1年。どれほどのことができるのだろう。“そんなことに本気出すよりも、支持率が高いいまのうちの解散・総選挙やってくれよ”というのが与党の本音だろうし、役人たちからも“所詮「選挙管理内閣」”と見透かされているんじゃないだろうか。
規制改革はいまに始まったことではなく、歴代の政権が常に唱えてきたことだし、それなりに実現させてもきた。ちなみに、GS業界最大の規制緩和となった「セルフ解禁」が実施されたのは1998年4月のこと。時の首相は、故・橋本龍太郎。当時海外ではセルフ給油が主流となっていたので、特段画期的な出来事ではなかったけれど、“お客に給油させるなんて日本では受け入れられないだろう”との意見が専らだったあの時から22年を経たいまはご覧のとおり。
ただ、この規制改革がステークホルダーである国民に利益をもたらしたかといえば、100㌫イエスとは言い難い。セルフ解禁によって価格競争に拍車がかかり、GSはこの20年余りで半減。おかげでGS過疎という問題を生じさせてしまった。近年相次ぐ自然災害で、GSが地域のインフラとして欠かせない存在だと気づいた時には後の祭り。崩壊したサプライチェーンの修復はもはや不可能だろう。
こんな状況になる前に、もっと思い切った規制緩和をすべきだったのではないか。セルフ解禁とセットで、セルフスタンドを運営するための新たな保安規制が幾つも課せられ、それが約7割を占める小規模給油所のセルフ化を阻んできた。当時の規制はいまだほとんど緩和されないままだ。国も今後の燃料供給インフラの方向性を見極めようと、2年前に経産省主導で「次世代燃料供給インフラ研究会」というものを立ち上げたが、結局何も成果は上がらなかった。議事要旨はネット上で公開されているが、出席者はそれぞれの知見を披瀝するだけ。給油所をもっと多機能なサービス拠点とすべきとの意見・提案に対して、規制の壁が立ちはだかる。出席者の一人が20年間微動だにしない保安規制についてこう発言している。
「例えば、法令に基づくセルフSSの給油許可の仕事についても、本来機械でできる仕事をする人間を募集しており、ショベルカーがある時代にスコップで掘る人間を探しているようなもの。今はIT化が進み、人が行うよりも機械が行うほうが正確で安全。いろいろ将来の夢のある話を伺っても、現実問題としてそこが改善されない限りは次のステップに進めないのではないか」─。
これ“縦割り110番”向きの意見だと思う。改めて河野さんに通報してみようかな。いや、待て待て。うっかりそんなことしたら、既得権を守ろうとする役所から「あいつ“タレコミ110番”しやがった」と睨まれていじめられるかもしれないから、やっぱやめとこ…。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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