vol.823『勝負』

菅首相は11日、インターネットで生中継された番組に首相官邸から出演し、開口一番、こう挨拶した。「みなさん、こんにちは。ガースーです」─。私は地上波のニュースでこの場面を見て、唖然としてしまった。このところ急落している支持率を意識してか、親近感を持ってもらおうと思って言ったのかもしれないが、タイミングが悪過ぎたように思う。各地で医療崩壊の危機が叫ばれているさなかに、「ガースーです」って…。私は失笑程度で済んだが、医療関係者や飲食業者の中には、激怒なさった方もおられるんじゃないだろうか。

“辛い時、苦しい時こそユーモアを”とはよく言われることだけれど、国民に緊張感を持てと言っておきながらの「ガースーです」は、多くの視聴者の神経を逆なでしてしまったのではないか。もしかしたら、側近から、「総理、“ガースー”って自己紹介したら絶対若者にウケますよ」と言われたからやったのかもしれない。だとしたら発案者はクビですな。「笑い」をナメている。

同放送で、首相は「GoTo」キャンペーンをやめる意思は現時点ではない、と言っておられた。「移動では感染しない」との提言を受けているとも。確かに、現在の感染拡大が、本当に「GoTo」のせいかどうか、エビデンスがないことも確か。逆に「GoTo」じゃないと証明できるものもない。政府としては、「GoTo」を中止しても、感染拡大が収束しないとなれば最悪だし、収束したらしたで“やっぱり「GoTo」のせいだったんだ”と言われるのも怖いのだろう。こうなったら、行き着くところまで「GoTo」するしかなさそうだ。

一方、9日に新型コロナによる死者数が過去最多の1日590人に上ったドイツでは、メルケル首相が連邦議会で演説し、クリスマス前の時期に制限を強いることについて、「ごめんなさい、本当に、心の底から申し訳ないと思っています」と搾り出すように述べた後、「それでも、590人もの命が奪われているという状況は私には受け入れられません。クリスマス前に多くの人と接触し、その結果、祖父母と過ごす最後のクリスマスになってしまうようなことはあってはなりません!」といつになく感情を露わにして訴えたことを、現地メディアは驚きをもって報じている。むろん、その演説がどれほど国民の心に響いたかはわからないが、少なくとも「ガースーです」よりは効果があったんじゃないかと思う。

それでも、ドイツでの感染死者数が2万人を超えているのに対し、日本は約2千5百人。そのせいか、「勝負の三週間」もあと一週間を残すところとなったが、あまり危機感が感じられない。実際、全国の主要都市の繁華街と観光地の人出を分析したところ、12月7~10日と、呼びかけ前の11月16~19日で午後7~10時の来街者数の平均を比較すると、8.6㌫にとどまった。(日本経済新聞調べ) これが、年末ごろにどのような結果となって現れるのか。

すでに、東海三県では感染者数の増加が加速しており、名古屋市も「GoToトラベル」から除外されることになるらしい。まあ、ウチの店に限って言えば、元々観光客が立ち寄るような場所ではないし、「GoToクーポン」が使えるわけでもないので、直接的な影響はないけれど、このまま感染拡大が続けば、さらなる減販の波が押し寄せてくるのは必至。本当の「勝負」はこれからだ。

しかし、仕入れ価格がじりじり上がっているにもかかわらず、市況は逆に下がってきている。売れなさ過ぎて焦っているのだろうか。「勝負」とは、あくまで安売りすることだと思っているとすれば、恐らく敗北を喫するだろう。人口減少、脱石油、そしてコロナと、社会構造が大きく変わってゆくのに、相変わらず薄利多売を追及するガソリンスタンド、略して「ガースー」は、本家同様空気が読めてないと思う。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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