vol.829『東京オリンピックの行方』

『英紙「タイムズ」は21日、新型コロナウイルスの感染拡大により開催を危ぶむ声が出ている今夏の東京五輪について、日本政府は非公式ながら中止せざるを得ないと結論付け、2032年開催を目指す方向で動いていると報じた。夏季五輪は24年がパリ、28年はロサンゼルスに決まっている。報道によると、与党の幹部は「誰も最初に言い出すことを望んでいないが、総意は(開催が)難し過ぎるということ。個人的には開催されないと思う」と述べた』─1月22日付「時事ドットコム」。

日本政府は早速、「そのような事実はない」、「大誤報だ」と反論し、報道打ち消しに躍起となっている。しかし、同じ英紙の「デーリー・メール」が「東京がパンデミックに耐えている中、このまま先へ進むという公約が国民の疑念をやわらげるのは難しいと感じる」と主張し、「ガーディアン」紙は、スポーツマーケティング関係者の「ここで五輪を開催するのは狂気」とのコメントを掲載した。

共同通信社が9、10日に全国電話調査した結果では、「中止すべきだ」の35.3%と「再延期すべきだ」の44.8%を併せると、反対意見は80.1%。昨年12月の前回調査の61.2%から激増している。いまだに五輪開催を既定路線としている政府に、多くの国民が首をかしげているわけだから、「タイムズ」等の報道も“やっぱりな~”という感じではなかろうか。先日テレビで某評論化が「東京五輪をめぐって、強行実施派と絶対反対派で国論が二分され、米国まがいの“分裂”が生じるのではないか」と危惧しておられたが、おそらく杞憂に終わるだろう。

それでも“五輪やめろ”というシュプレヒコールが起こらないのは、やはりオリンピック・パラリンピックに出場するために血のにじむようなトレーニングに励んできたアスリートたちの姿をテレビなどで見ているからなのだろう。体操の内村航平選手は、「もしこの状況で五輪がなくなってしまったら、大げさに言ったら死ぬかもしれない。それくらい喪失感が大きい。それだけ命かけてこの舞台に出るために僕だけじゃなく東京オリンピックを目指すアスリートはやってきている」とテレビのインタヴューで心情を吐露している。そんな言葉を聞くと“何とかやらせてあげたいな~”と思うのが人情というものだ。

そんなアスリートたちを慮ってか、東京医師会の会長さんが「無観客開催」の検討を提唱した。これまで無観客を否定してきた組織委員会も、武藤事務総長が「あらゆる選択肢を考える」と記者団に語り、変化が生じている。そうなった場合の経済損失は2兆4千億円余りとの試算も出ているが、もうそんなことは言っていられない、とにかく国の面子にかけても開催しようというのが本音ではないか。

□だが、状況はますます厳しくなっている。主要都市では医療崩壊が顕在化しており、緊急事態宣言の拡大・延長が検討されている矢先に、遂にというか、やはりというか、感染率の高い変異ウイルスの市中感染が確認され、その対応に大わらわとなっている。発生源とされる英国のジョンソン首相は、この変異種が致死率においてもより高い可能性がある、と語っている。強毒性を高めた第2波によって一気に死者が増えていったスペインかぜ禍の悪夢がよみがえる。

五輪開催の可否を問うデッドラインは、聖火ランナーがスタートする3月24日と言われているが、とてもじゃないけど、それまでに「人類が新型コロナに打ち勝った証」(菅首相)としてこれを実現させるのは無理だと思う。以前にも紹介した、映画「シン・ゴジラ」での内閣官房副長官・矢口蘭堂の直言を、いまの五輪関係者の皆さんに謹んで献上したい。『先の戦争では旧日本軍の希望的観測、机上の空論、こうあってほしいという発想などにしがみついたが為に、国民に300万人以上もの犠牲者が出ています。根拠のない楽観は禁物です』─。

 

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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