『サントリーホールディングスの新浪剛史社長が9日、コロナ感染拡大が収束した後の日本経済の活性化策について、「45歳定年制を敷き、個人は会社に頼らない仕組みが必要だ」と述べ、SNS上で波紋を広げている。新浪氏は10日、「定年という言葉を使ったのはまずかったかもしれない。45歳は節目であり、自分の人生を考え直すことは重要だ。スタートアップ企業に行くなど社会がいろいろなオプションを提供できる仕組みを作るべきだ。“首を切る”ことでは全くない」と釈明した』─9月10日付「毎日新聞」。
政府の経済財政諮問会議のメンバーでもある経済界きっての論客の口から出た「45歳定年制」の記事をネットニュースで目にした時、“こりゃあ炎上するだろうな”と思ったが、案の定。現行の高年齢者雇用安定法は、平均年齢の伸びや年金支給年齢の引き上げに合わせるかたちで60歳未満の定年を禁じ、65歳までは就業機会を確保することを企業に義務付けており、今年4月からは70歳までの確保も「努力義務」になった。新浪氏は、そんなことをやっていたら日本企業の新陳代謝が進まず、ダイナミズムが損なわれるとして、「45歳にすれば…」と発言したようだが、結果的にはブーイングの嵐を引き起こしてしまったようだ。
そりゃあ、能力のある人、コネのある人、そして何よりお金のある人は、40代を迎えたあたりで“起業しようかな”とか“留学しようかな”なんてことが言えるかもしれないが、ほとんどの「40代」は、住宅ローンや教育費など人生で最も出費がかさむ時期を迎えており、それらを維持するためにしがみ付いてでも会社勤めをしなくちゃならない状況だ。しかも、コロナ禍で大きなダメージを受けた社会で、45歳のおじさん、おばさんをそれまでと変わらない賃金で雇ってくれる企業が果たしてどれだけあるだろうか。とりあえず“隗より始めよ”で、サントリーグループで45歳定年制の実証実験をしてみてはどうだろう。サントリー創業者・鳥井信治郎の口癖は「やってみなはれ」─。
ただ、新浪氏の言っていることが全くの暴論かと言えば、そうとも言えない。例えば、車のエンジンを良好に保つためには、定期的なオイル交換が不可欠だが、オイル交換はガソリンの補給ほど重要ではないと考えるドライバーもいる。確かに、ガソリンを入れないと車はやがてストップしてしまう。しかし、「今オイル交換をしなくても、エンジンは取りあえず動くから大丈夫」と考えて、エンジンのメンテナンスを先延ばしにしていると、車はいつの日か、煙を噴き、きしみながら完全にストップしてしまい、修理して再び走れるようにするために、多大の時間とお金が必要になる。下手をすると廃車になる恐れすらある。
年功序列の慣例を打破できず、「とりあえず会社はまわっているから大丈夫」と考えて人材の育成を怠っていると、将来大きなツケを払うことになる。そうならないために、 45歳ぐらいで半ば強制的に退職させてでも“若返り”を図ってゆかないと、完全な実力主義の外国企業と伍してゆけない─そんな危機感が新浪発言の背景にあったのではないかと勝手に推測する。また、世界一の長寿国にあって“第二の人生”のスタートラインを、体力・知力共にまだ余力のある40代に設定することで、真の“一億総活躍社会”を実現できる、という少々妄想に近いビジョンを掲げようとしたのかもしれない。
GS業界の現状は、もはや完全に斜陽化の道を歩んでおり、45歳になるよりずっと前に見切りを付けて辞めてゆく人が少なくない。むしろ、第二どころか、第三の人生を歩もうかという人たちの受け皿となっている。経営者の高齢化も進んでおり、自分の孫が大人になるころには、GSは無くなっているんじゃないかと心配する人もいる。そういうわけで、GS業界、特に私のような零細店の店主は、先のことをあれこれと心配せず、走れるところまで走るしかない。
それにしても、今回の新浪氏の発言は、ご本人もおっしゃるとおり「まずかった」と言わざるを得ない。「いろいろなオプションを提供できる仕組み」とやらを具体的に示したうえでなければ、露骨な人件費抑制策としか取られず、日本中の40代のサラリーマンを敵に回してしまったかも。サントリーの不買運動が巻き起こり、株価が暴落するのでは?と余計な心配をしたが、この会社、非上場でした。(汗)
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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