vol.863『半導体不足』

『トヨタ自動車は17日、既に明らかにした来月の減産計画の詳細を発表した。国内14工場27ラインで最大11日間の稼働を停止する。当初計画から約33万台引き下げ、国内分は約15万台。今月に続いて大幅な減産を強いられる。東南アジアでのコロナ感染拡大に伴う部品調達の遅れを受けたため』─9月17日「時事通信」。

息子が4月にトヨタ「ヤリスクロス」の購入契約をし、前金も払ったのだが、いまだ納車日の通知が来ない。ディーラーの担当者も「こんな事態は初めてです」と平謝り。今月、トヨタが発表した新型SUV「カローラクロス」の納車は先行予約ですら早くて11月下旬、通常販売はメドが立っていないとのこと。また先月発売が始まった新型「ランドクルーザー」に至っては4~5年待ち(!)との情報もある。

この異常事態を引き起こしているのは、世界的な半導体不足だ。『トヨタはこのほど、半導体の在庫水準を従来の3カ月分から5カ月分まで増やすよう、一部の取引先に伝えた。もともと「ジャスト・イン・タイム」方式を導入して効率化を追求していたが、東日本大震災以降、段階的に部品の在庫を増やしてきた。今回、半導体不足の長期化で大幅減産を強いられており、さらに在庫を増やす』─9月15日付「日本経済新聞」。

いまや人類は石油と半導体なしに文明を維持することは不可能。半導体がない世界は50年以上前にタイムスリップするようなものだ。“産業のコメ”半導体の生産拠点の多くは、シンガポールやマレーシアなど東南アジアにあり、パンデミック&ロックダウンで生産能力が低下している。また、自動車メーカーが昨年、世界中の工場の稼動を停止させている間に、半導体メーカーは巣ごもり需要などで旺盛だったPC・スマホなどのIT系向けに生産をシフトしてきた。ここへ来て需要が回復したからといって、すぐに“これだけ持って来い”と自動車メーカーが注文しても、すぐには応じられない状況となっているのだ。

1990年には、日本の半導体の世界シェアは50㌫だった。それがいまはたったの6㌫。かつては、大型コンピューター向けの半導体で圧倒的なシェアを占めていたのだが、その後の急速なコンピューターの小型化を予見できず、バブル崩壊もあって設備投資や研究開発をケチっているあいだに、サムスン(韓国)の独り勝ちを許す結果となってしまった。世界屈指の自動車大国が思い通りに自動車を作れないという異常な状況を生じさせたのは、無論コロナという前代未聞の災禍によるものだが、相変わらず重厚長大産業が幅を利かせ、半導体需要の将来性を軽侮してきた日本の産業構造も大きな要因と言えるだろう。

世界的な半導体不足に対し、米国は520億㌦(約5.7兆円)を拠出するそうだし、EUは2030年までの倍増計画を発表、中国はメーカーに10年間の所得税減免を行なうなどしてテコ入れをする。一方日本は、首相が「重要な成長戦略として国を挙げて取り組む」と決意表明しただけ。一応、10兆円研究ファンドを作りその幾らかを半導体事業にまわすとのことだが、その程度では劣勢を挽回するのは難しそうだ。この際、プライドを棄てて米国メーカーの下請けにまわることでシェア回復を図るべきとの意見もあり、半導体はポストコロナを見据えた重要な国家戦略の一つになりそうだ。

現在の需要のままなら22年後半あたりには半導体不足は解消し、23年には過剰になるという見方はある。しかし、その頃までに自動車のEV化・スマート化が進むようなら、更なる需要が追加され、23年でも不足が続くという見方もある。

半導体不足はGS業界にも影響が及ぶ。例えば、近年、中古車販売を手がけるGSが増えているが、新車の生産が滞っているため、中古車市場にまわる車も品薄になり、オークションの落札価格、つまり中古車の仕入れ価格が上昇している。価格志向の強い中古車市場でこれは悩ましい問題だ。

一方、半導体不足はEVの普及を遅らせることにもなる。現在、自動車1台当たり50~100個の半導体が搭載されていると言われるが、EVでは大幅に増え、電力調整をつかさどる高性能なICチップが必要不可欠となる。そして半導体が1個でも不足すると自動車の生産ラインは停止する。EV時代の到来に日々怯えているGS業界にとってこれは朗報か?

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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