「SDGs」─近年、よく耳にするワードだが、これは2015年の国連サミットで採択された「Sustainable Development Goals」の頭文字をとったもので、日本語では、「持続可能な開発目標」と訳される。「誰一人取り残さない」ことを標榜し、貧困や気候変動、差別など世界が共通で抱える課題を解決し、2030年までに持続可能でよりよい世界の実現を目指し、17のゴールが設定されている。毎年、世界各国の行政府や企業・団体が、国連で採択された9月25日を含む一週間を「SDGs週間」とし、推進と達成を喚起する様々なイベントを開催する。
個人的には、「SDGs」は理想であると同時に幻想でもあり、どれひとつ人類の力で解決することはできないと思う。とにかく17項目の最初がいきなり「貧困をなくそう」だなんて…グローバリズムによって貧富の格差はどんどん拡大しており、人間が貪欲という“遺伝病”を克服しない限り絶対に解消できない。いまから10年前に出版された『世界がもし100人の村だったら』によれば、 「すべての富のうち6人が59㌫をもっていて、みんなアメリカ合衆国の人です。74人が39㌫を、20人がたったの2㌫を分け合っています」とのことで、あまりの格差に言葉を失う。
だが“どうせダメなんだから”とあきらめて、何もしないでいるというわけにはいかない。地球村の住民の一員として、17項目の中で、できることを、できる範囲で行ってゆくべきだろう。GS業界でも、「SDGs」に取り組んでいる企業はいくつもある。例えば、地元の学校に寄付をしたり、医療機関にマスクを寄贈したり、公園や歩道の清掃活動に従業員を派遣したり、廃オイルや洗車汚水の再処理や自動車部品のリサイクルを促進したりと、教育や保健や環境などの分野で貢献しようと活動している。
世界規模で考えた時には、カーボンニュートラルを実現させるために、石油業界はまるごと消滅してもらうのが一番の「貢献」なのだろうが、そんなことを提案すれば産油国や石油メジャーは黙っていないだろうし、協賛も得られない。そのため7番目の目標として、やや控えめに「エネルギーをみんなに、そしてクリーンに」と─。
この点でも、絶望的ともいえる不均衡がすでに生じている。再び『世界がもし…』から引用すると、「すべてのエネルギーのうち20人が80㌫を使い、80人が20㌫を分け合っています」とのことだ。無論、このうちの「20人」には石油を100㌫海外に依存している日本国民も含まれている。地球村の中で、比較的恵まれた立場にいるありがたみをかみ締めると同時に、貴重なエネルギーを無駄遣いしないようにしたい。安売りするぐらいなら、「80人」の人々に分け与えるべきだ。
繰り返しになるが、「誰一人取り残さなれない世界」なんて実現不可能である。国際連合は、前身の国際連盟同様、世界の平和と安全を維持することも、すべての人々に自由と平等をもたらすことも、一日だって成就できないまま、76年間失敗を繰り返してきた。血を流し続ける世界のために国連がしてきたことは、せいぜい絆創膏を貼る程度で、大国のエゴによって、手術はおろか、処方箋を出すことさえできずにいるうえ、コロナという新たな問題が生じ、世界はますます混迷の度合いを深めている。
そんな八方ふさがりともいえる世界情勢の中で、20日から国連総会が2年ぶりに対面形式で開催された。特別イベントとして「SDGモメント」という世界の首脳たちによるトーク・セッションが行なわれ、菅首相もビデオで参加。日本の「SDGs」達成度ランキングは18位。ジェンダー平等(目標 5)、気候変動対策(目標13)、海の環境保全(目標14)などでスコアを大きく落としているそうだ。
このイベントで開会スピーチをしたのは、韓国の男性アイドルグループ「BTS」。リーダーのRMは、「可能性と希望を信じれば予想外の状況でも新たな道を発見できる。新たに始まった世界で互いに“ウェルカム”と言い合えればうれしい」と語った。試練に立ち向かう勇気と柔軟性は若者の持つ特権だ。ただ、彼らもやがて理想が幻想であることを思い知らされるだろう。そこからが本当の試練だ。それはともかく、「BTS」が国連本部を舞台(!)に歌い踊る『Permission to Dance』のパフォーマンスビデオは必見である。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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