vol.654『人手不足を嘆く前に』

『新出光(福岡市)は10日,直営153店のうち9都県の27店で5月までに順次営業時間を短縮すると発表した。長崎県時津町の店舗で24時間営業を廃止するほか,閉店を30分~2時間早める。店舗運営の効率化を図るとともに,必要な人材確保につなげる狙いもある。他の店舗でも順次,営業時間を短縮できないかどうか検討する。広報担当者は「勤務時間を短縮し,正社員の確保や定着が難しい状況を改善したい」と話している』─4月10日付「産経新聞」。

ファミレスの営業時間の短縮や,宅配便の再配達サービスの見直しなど,人手不足でこれまで“当たり前”と思っていた様々なサービスが変化させている。GS業界の人手不足はいまに始まったことではないが,最近では廃業を余儀なくされる店が地方などで増えているとのことだ。

『全石連SS経営革新部会は11月に開いた会合で,人手不足解消・人材確保に向けた対応策のあり方について勉強した。この中で,シニア・主婦・外国人などの積極的な活用,登用の必要性などについて提案を受けた。一方で,「過当競争に明け暮れ,満足な収益さえ確保できず,そのしわ寄せがSS現場で働く従業員に及んでいる」と指摘。「SSがきちんと利益が確保できていないために,給料も時給も上げられず,労働環境も改善できない」と訴えるなど,元売を巻き込み石油業界一体となって,人手不足対策を根本的に検討していく必要性を訴える声が高まっている』─2016年12月9日付「ぜんせきweb」。

わかりきったことをただ“確認”しただけで,外食産業や流通業界のように,業界一体となって具体的な対策を講じるわけでなし,予算を投じて業界のイメージアップを図るでもなし。高齢者・主婦・外国人などの積極的な活用なども提言されたとのことだが,すでにそれらの人たちはGS業界よりもよい条件で“争奪”されつつあり,手遅れの感あり。

もし,全石連がGS業界の人手不足を本気で何とかしたいというのであれば,まず,元売販社GSに「きちんと利益が確保」できる水準の価格で販売させることである。最近,スーパーでの安売りに耐えかねた豆腐業界が農水省に調査を求めた結果,取引の是正を求める指針が策定された。食品製造業では初めてのことだという。もやし生産者の業界も,優越的地位を乱用しての安売り競争をやめるよう求めており,他の食品にも同様の監視が強まると見られている。

消費者からしてみれば,豆腐もガソリンも年中安いに越したことはないが,それゆえに作り手や働き手がいなくなって,手に入りにくくなったら元も子もない。便利で安定した暮らしを維持してゆくためには,それなりのコストが掛かるということを理解してもらわなければならない。消費者の生活防衛意識が強まる中で,全石連にはその覚悟と気概があるや否や。

また,いまだGS総数の3割にとどまっているセルフ方式を,地方にも普及させるべく,設備や運営における規制を緩和させるよう行政に働きかけることも必要だ。少子化が進む中で,ますます貴重となる労働力を,介護や建設など本当に必要とされる分野に譲るために,セルフ化を促進させることで貢献できるのではないか。

とはいえ,人手不足対策を全石連だけに押し付けていては埒が明かない。GS業界も,冒頭の新出光のように,何らかの手を打って,人手の確保や人材の育成を図る必要がある。アルバイト・求人サービス「an」が行った調査によれば,若者がアルバイトを探すときに重視するポイントの1位は「シフトの融通度」だという。若者の勉強する時間と趣味・娯楽にかける時間が増加し,忙しくなっていることが背景にあるらしい。経営者・管理職には,若者たちのライフスタイルに理解を示す寛容さが求められている。

一方,楽で時給が高いアルバイトが好まれるかと思いきや,実際にアルバイトに求めるものを若者に聞くと,「人間関係。いくら時給が良くても人間関係が悪かったらやっていけない」との答えが多く返ってくるとのことだ。やっぱり最後はそこなんだな。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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