宅配便最大手のヤマト運輸が、深刻な人手不足により、荷物の取扱量を抑制することを検討し始めた。具体案として、ドライバーたちの休憩時間を確保するために、時間帯指定サービスについて、利用が比較的少ない正午から午後2時までの時間帯を廃止することや、集配業務の終了時間をこれまでよりも早くするために、夜間の配達時間帯を変更することなどが浮上しているという。
国交省のまとめによれば、国内の宅配便の配達数は1990年度は11億個余りだったが、ネット通販が普及し始めた2000年度には25億個を突破、2015度には37億4500万個に達した。そのうえ、国内の宅配便のうち、届け先が不在で、再配達される荷物の割合は全体のおよそ2割にのぼっている。再配達のために年間およそ9万人に相当するドライバーが働いていると国交省は試算しており、再配達の増加が人手不足に拍車をかけていると分析している。
さらに、ヤマト運輸に関しては、最大のライバルである佐川急便が、2013年に通販大手「アマゾン」商品の配達から撤退したため、ヤマトへの集中化が一気に進み“嬉しい悲鳴”が遂に、“クロネコの悲鳴”になってしまったようだ。事はヤマト一社の問題ではなく、「配送無料」や「即日配達」などの過剰サービスをこのまま放置しておくと、やがて物流崩壊を引き起こすと警鐘を鳴らすアナリストもいる。
自動運転だのドローンだのと未来の運搬技術が報じられるきょうこの頃だが、まだまだ人間の手で物を運ばなければ、我々の生活は成り立たない。もし、全国のヤマト運輸のドライバーが、待遇改善を求めて一斉にストライキを行なったらどうなるか。電鉄や航空の比ではない。考えただけでもぞっとする。
それに比べてGS業界は、1998年のセルフ化が認可されて此の方、仕事内容はずいぶん楽になったと思う。それまで、お客様が来店するたびに、誘導、挨拶、受注、給油、精算、窓拭き、果ては灰皿清掃まで行ったうえに、油外商品の売り込みもしなければならなかったが、いまでは「油外」を除いて、ほとんどお客様任せ。当初“そんな横着なやり方が通用するはずない”とか“スタッフが給油したほうが速い”などと言われていたが、いまではセルフ給油がすっかり定着している。しかし、このまま楽な商売をしていていいものか。客が来るのを待っているのではなく、ガソリンを配達してまわったらどうか。無論、配達料をしっかりいただいて─。
米国では、スマートフォンのアプリをタップするだけで、自宅にいても、仕事をしていても、ショッピングの最中でもガソリンタンクを載せた小型トラックが駐車場にやってきて、給油をしてくれるという「オンデマンド・ガソリン宅配サービス」が、各地で営業を始めている。ただ、都市部におけるガソリンの移動販売は、米国でも大半の州で厳しく規制されており、業者と行政とのあいだで、いまも安全性と利便性との折り合いをどうつけるか検討が続いているとのことだ。なかなか面白そうなビジネスだと思うが、仮にいま日本のGS業界がガソリン宅配をすることになったら、この分野でも価格競争をやらかして、“くたびれもうけ”で終わってしまう恐れがある。そんなことなら、やらないほうがマシだ。
昨年、ヤマト運輸は、事業所が残業代の不払いなどで労働基準監督署から是正勧告を受けた。そのため同社は、今月に入り、従業員約7万人を対象に勤務実態の調査を行ない、会社側の認識よりも多ければ、超過時間分の賃金を未払い分として支払うとの方針を打ち出した。賃金を上げられれば、人を集めやすくなり、労働負荷の軽減も期待できる。そのためには利益の確保が必要になる。結局、何をどこへ運ぶにせよ、適正な運賃をいただくことが不可欠なのだ。
「アマゾン」創業者のジェフ・ベゾス氏は、米航空宇宙局(NASA)に対し、将来の月面基地の建設に向け、施設などの輸送で協力すると呼びかけているという。月にまで宅配しようという魂胆だが、やはり「送料無料」にするのだろうか。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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