先日、「セルフスタンド日進東」に来店したお客様の話。インターホンでスタッフを呼び出し、「プリカを入れたのにガソリンが出ない」と年配の男性。確認してみると、外接機にプリカを入れた形跡がない。「お客様、プリカが入っていませんが…」「そんなはずはない。確かに入れた」「そうですか…」。スタッフが録画映像を確認すると、券売機でプリカを購入した男性は、反対のレーンの外接機にプリカを挿入しているではないか。
「お客様、向こう側の機械に入れてらっしゃいますよ」「馬鹿にするな!わしゃ、そんな間抜けなことはせん!」と怒り出すので、録画映像を見てもらった。バツの悪そうな顔で「おかしいなぁ」とブツクサ言いながら給油していたが、「ゴメン」の一言もなし。間違いを指摘されると怒り出し、自らに非があったと分かっても素直に認めないという傾向が、高齢男性客にはよく見られる。でも、これはまだ可愛い方だ。
最近来店したおじいさんは、給油が終わったあとスタッフを呼び出すと、「家への帰り方がわからない」とおっしゃる。スタッフは警察に電話しようとしたが、運よく交差点でパトカーが信号待ちをしていたので手招きで呼び、対応してもらった。また、別の日に、監視室までやって来たおばあさんに「給油の仕方を教えてほしい」と頼まれ部屋を出たスタッフは、「わたしの車はどれだったかしら」と尋ねられ愕然としたという。確かに、たまたまシルバーメタリックの車が3台停まっていたそうだが、いましがた乗ってきた自分の車がわからないとは。
券売室まで案内し、プリカを買っていただいたあと、給油レーンに戻ったおじいさんが、給油方法を教えようとしたところでスタッフの顔を見て「あなただれですか?」と尋ねたという話は半月ほど前に紹介した。人気漫才コンビ「千鳥」のノブじゃないが、とにかく、最近来店する高齢のお客様の“ボケのクセがスゴイ”。私の店は、日本で一番カンタンなセルフ給油システムだから、クルマ社会の高齢化にはうってつけだと自負していたが、もはやそんなレベルの話ではなくなってきている。
高齢者ドライバー、とりわけ認知症となっている老人が引き起こす交通事故については、大きな社会問題となっているが、いま紹介したような方々が車を運転しているのだから、起こるべくして起こると言わざるを得ない。中には、公共交通を使って大抵の場所へは行くことのできる環境に住みながら、運転し続ける頑固な人もいるようだが、日進市のような地方都市では、自動車がなければ病院や農協や郵便局に行くこともままならない。多くの高齢者は、運転せざるを得ない社会で生活している。簡単には解決できない、しかし年々深刻化する問題なのだ。
しかし、残高の残ったプリカを取り忘れて行ってしまう客は高齢者よりもむしろ年齢の若い客の方が多いのはなぜなんだろう。若い人は、給油ノズルを握っているわずかな時間のあいだにも、いろいろなことを考えていて、それでうっかり忘れてしまうのだろうか。そういえば、財布を車の屋根に乗せたまま発車してしまったり、キャップを閉め忘れてしまうのも、若い人が多い気がする。青春の日々は、悩みが多く、決して長くはないが、慌てると痛い代償を払うことになる。これまで、「財布落ちてませんでしたか!?」と青ざめた顔で訪ねてきた若者を何度見てきたことか。
…と偉そうなことを書いてきた私自身、なかなかのうっかり者である。何年か前、一人でふらりと入った焼き鳥に傘を忘れて来た。数ヶ月後の小雨交じりの日に、妻と相合傘でまたその店に行き、傘を取り戻すことができた。そこまでは良かったのだが、少し離れた居酒屋ではしごしたあと、地下鉄に乗ろうとしたら、別人の傘を差していることに気がついた。「もー、認知症始まってるんじゃないの? 病院行ってらっしゃいよ!」と妻。毎週、くだらないコラムを書いているのも、頭の体操の一環なのである。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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