vol.678『平和は訪れるか』

ノーベル賞委員会は、今年7月に国連で採択された核兵器を違法とする核兵器禁止条約の成立で「主導的役割を果たした」として、今年のノーベル平和賞を、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN・本部ジュネーブ)に授与すると発表した。ICANは2007年にオーストラリアのメルボルンで結成され、日本や米英など各国のNGOが加わって各国の平和団体と連携し、核兵器廃絶を目指して政府代表への働きかけや一般に向けたキャンペーンを進めてきた組織で、100カ国470団体の規模だという。私は、今回の報道に接するまで、その存在をまったく知らなかった。

ノーベル平和賞の選考委員会は授賞理由について、「核兵器がもたらす壊滅的な結末への注目を高め、条約の採択などに向けた画期的な努力をたたえて授賞する」と評価しているが、国連加盟国の6割を超える国と地域の賛成で採択された件の条約も、世界の核兵器の9割以上を保有しているアメリカとロシアは、「現実的でない」として反対しており、世界唯一の被爆国である日本も、アメリカの核の傘で守られているため反対の立場をとっている。ちなみに、ノーベル賞委員会のあるノルウェーもこの条約に参加していない。これを「絵に描いた餅」と言わずして何と言う。しかし、それでもICANが選ばれた理由は、この賞のそもそもの始まりに起因しているという。

ノーベル賞は、ダイナマイトの発明者・アルフレッド・ノーベル(1833-1896)によって創設された。ダイナマイトの発明・生産で巨万の富を築いたノーベルは、ある日、自分の死を報じる新聞を読むことになる。それは、彼の兄の死去を、フランスのある新聞がアルフレッドの死去と勘違いして報じたものであった。その新聞の見出しは、「死の商人、死す」。これに衝撃を受けたノーベルは、死後自分がどのように記憶されるかを考えるようになり、私財を投げうち、人類の平和と発展に寄与した人々を称え、支援する目的でノーベル賞を創設したとのことだ。

しかし、アルフレッドの死後、20世紀に入って早々に第一次世界大戦が勃発する。アルフレッドが開発した種々の爆薬は、3700万人もの死者を出した近代戦に大いに“貢献”した。何とも皮肉なことである。その後も、ノーベル賞は、数々の有能な人々に賞を与えてきたが、世界はまったく平和になっていない。今年1月に科学者のグループが、世界はかつてなく破滅に近づいたとして、人類滅亡までの残り時間を示す“終末時計”の針を30秒進めた。世界の終末を意味する午前0時まで、あと2分30秒しか残されておらず、これほど世界の終わりに近づいたのは約60年ぶりだという。

今月1日には、ラスベガスで、米国史上最悪の銃乱射事件が起きた。死者58人、負傷者489人。アメリカって恐い国だなぁと改めて感じた。何が恐いかというと、銃による殺傷事件が日常茶飯事となっているにもかかわらず、全然銃規制をしようとしないこと。確かに、いまさら銃の所持を禁止したところで、もう手遅れかもしれない。米国内で所持されている銃の数は約3億丁。国民全員が一丁ずつ持っている計算になる。銃砲店の数は約5万店で、マクドナルドの3倍だとか。これを全米から一掃できたら、間違いなくノーベル賞モノだが、むしろ、世の中がどんどん物騒になってきたので、いままで銃を持たなかった人たちが銃を持つ傾向にあるらしい。“目には目を、歯には歯を、銃には銃を”そして“核には核を”─。

人類が利己心と猜疑心を捨て去らない限り、世界平和は到底無理だろう。近所のGSが1円下げたら“安売りには安売りを”とばかりに、すぐその下をくぐって販売するといったこと年中やっている我々の業界と、安保理で平和そっちのけで中傷合戦を繰り広げている国連と、やっていることはそんなに変らないように思えるのは私だけだろうか。

セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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