日産自動車の無資格検査問題に続き、神戸製鋼所のデータ改ざん。取引先と決めた強度などの基準に合っていないのに、適合したかのように検査証明書を書き換えていたという。日産の車体にも強度偽装されたアルミ製品が使われていたらしいので、リコール対象車の種類と台数がさらに広がることは必至と見られている。
自動車車体用アルミは国内では神鋼がパイオニア的存在で、燃費規制強化に伴う車体軽量化ニーズから需要が急速に拡大した。神鋼にとって自動車向けアルミ製品は成長戦略の柱の一つだっただけに、10年も前から常態的な偽装がなされたとすれば、会社の存続を危うくさせる事態と言える。
昨年4月に、三菱自動車が燃費データを改ざんし、それが契機となって日産の支配下に置かれたことは記憶に新しい。不正の背景として、自動車メーカーの低燃費競争があり、年々引き上げられる目標値達成へのプレッシャーが招いたものと報じられた。その際このコラムで、自動車の軽量化を可能にした高張力鋼板(ハイテン)の強度まで偽装されていることはないだろうかと書いたが、どうやら心配が現実になりそうな雲行きである。
神鋼の“偽装製品”は、トヨタやフォードなど他の自動車メーカーにも納入されているほか、JR各社の新幹線車両や、三菱重工の「H2A」ロケット、三菱航空機の「MRJ」などにも使用されていることがこれまでの調査で判明している。これらすべてが即“不良品”というわけではないが、やはり、自動車、新幹線、航空機など、命を預ける乗り物の耐久性能に疑いがかけられていることは、重大事であろう。
日本を代表する企業が性懲りもなく偽装や改ざんという過ちを犯すのはなぜか。一つはコスト軽減の圧力だと思う。いまから12年前に、千葉県の建築事務所が、構造計算書を偽造、国の耐震強度の基準を満たしていないマンションが建設・販売されるという事件があった。連日ワイドショーで取り上げられ大騒ぎになったことを覚えている。建築士は建設会社から、できる限り安く作るよう圧力を受けたことが、偽装に手を染めた動機だったと語っていた。その後も、コストを抑えて儲けをだすという至極まっとうな経営手法が、貪欲な人々によってねじ曲げられ、遂には人命軽視にまで至るという事件が跡を絶たない。
別の理由は、納期の圧力。他社に先んじて新製品を世に出したい、今期決算までに売上を計上したい、という経営者の焦りと苛立ちが会社全体に伝播すると、書類上の操作で時間短縮を図る行為に及ぶ。不正会計処理で経営危機に陥った東芝がいい例だ。中には、不正が行なわれていたことを「本当に知らなかった」経営者もいるかもしれない。しかし、経営者が業績を上げ、株価を上げるために“もっと早くしろ”と急き立てたことが、不正行為のサジェスチョンになったとすれば、やはり責任は免れないだろう。
一方、自社で検査ができる大手メーカーとは異なり、多くの製造業者は製品化のために国の機関で検査を受け、お墨付きをもらわなければ商品として販売することができない。ところがこれに大層時間がかかる。膨大な書類の提出が求められるうえ、半日か一日程度の検査を受けるのに何ヶ月も待たされることもある。検査で少しでも不備が見つかれば、また振り出しに戻される。一日も早く製品化して、製品開発にかけたお金を回収したいとの思いが、偽造や改ざんへと向かわせるとすれば、検査機関の効率化も不正防止の一助となるかもしれない。
いずれにせよ、跡を絶たない不正の根底にあるのは、人の良心の問題だと思う。人への恐れやお金の心配が高じると、間違っていると思うことを、何のためらいもなく実行してしまう恐れがだれにでもある。清い良心を保つことは容易ではないから、どんな業界でも“正直者が馬鹿を見る”という風潮がまかり通る限り、「競争力」の名の下に、いまもどこかで不正がなされていることだろう。
セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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