vol.684『サウジアラビア』

先月から仕入れ価格がどんどん上昇してきた。なぜ上がってきたかといえば、原油価格が上昇してきたから。なぜ上昇してきたかといえば…もろもろの要因があるのだろうが、やはり今回は産油超大国・サウジアラビアのお家騒動が大きいというのが識者たちの一致した見解だ。

サウジアラビアは、“サウド家のアラビア”を意味する国名からもわかるとおり、サウド家の王族が政治の重要ポストを握り、国王が大きな権力を持つ絶対君主制国家である。日量およそ1000万バレルの石油を生産する、言わずと知れたOPECの盟主である。

そのサウジに激震が走ったのは今月4日。81歳のサルマン国王の実子ムハンマド皇太子が率いる「汚職対策委員会」が、有力王族や現職閣僚ら200人超を汚職容疑で次々に拘束、一連の摘発で計8千億㌦(約90兆7千億)の資産の没収を狙っているとのことだ。シェール革命以降、原油価格低迷で財政状況が悪化しているサウジにとって、これら没収資産は“赤字補填”に充てられると見られている。

それにしても、サウジ王族の資産額ってスゴイな~。8千億㌦というと、東京都の年間GDPに匹敵する額だ。GS経営者を父親に持つ子が、クラスメートから“ヨッ、石油王!”とからかわれるのとはわけが違う。正真正銘の金持ち一族だ。それら、親類縁者をなりふりかまわず追い落とし、権力掌握を目指す若干32歳のムハンマド皇太子とはどのような人物なのか。

サウジで女性が自動車を運転することが認められたというニュースはまだ記憶に新しい。ムハンマド皇太子は、中東が引きずる古いしがらみを打ち破り、サウジを近代化させようとする改革派リーダーだという。最近、サウジと共同で10兆円の投資ファンドを創設したソフトバンクグループの孫正義会長によれば、「これほど情熱にあふれたリーダーに会ったことがない」のだそうだ。

だが、皇太子がこれまでに仕掛けた政策は必ずしも成功しているとは言い難い。シェール企業とのガチンコ価格競争に挑んだ結果、石油価格の大幅な下落を許すこととなり、外貨の8割超を石油に頼るサウジ財政は急激に悪化、やむなく油価下支えのため減産を強いられた。また、短期間で決着するはずだったイエメン内戦への介入も長期化、これも財政の負担となっている。

これまで、潤沢なオイルマネーでそこそこの暮らしができていたうちは政治に口を出さなかった国民の不満が沸々と湧き上がるのを感じ取った皇太子が、怒りの矛先を変えるために、今回、電撃的“腐敗撲滅キャンペーン”に打って出たとの見方が専らだ。しかし、この強硬路線が失敗し、サウジの政情が流動化するようなことになれば、石油市場にはますます不安が高まり、皮肉なことだが、原油価格は急騰する可能性が高い。

それまで、地場の有力店として安定した収益を上げていた老舗GSが、新興GSと力比べの安売り競争を始めた結果、収益が見る見る悪化してしまい、二代目若社長は、高給取りの叔父の専務や、従兄弟の常務たちを片っ端からクビにして、脱石油を掲げて新規事業を立ち上げる…そんな感じかなと勝手に想像したりするわけだが、跡継ぎというのは、能力があってもなくても、その出自ゆえにいばらの道を歩む定めにある。

ところで、今回の原油価格の上昇は、日本においてはJXTGが誕生してから初めての局面であるが、いまのところ国内シェア50㌫を占める元売の存在は如何なく発揮されているようだ。そして、市況も概ねスムーズに値上がり分が転嫁されているように思う。価格を下げてもガソリンが以前のように売れなくなったことに多くのGSが感じはじめたのか。仕入れが上がったら、ぐずぐずせずに素直に値上げするほうが利口だと気付きはじめたのか。やはり「量」より「利」である。あのサウジですら、量に固執したために泥沼の価格競争に陥り、現在の危機的な状況を招いたのだから…。

  セルフスタンドコーディネーター 和田信治
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